見出し画像

ときめき


好きな人との初めての夏でした。ちょうど一年前、地元の最寄り駅で7年ぶりに見かけた彼に声をかけてほんとうによかった。恋人として過ごせた幸せな日々を記します。

(1万字近くなっちゃったのでまさかの前後編に分かれちゃいました、でも楽しい気持ちになれると思うので読んでください、えへへ)





8/10(土)

ドトールでミラノサンドとアイスティーのセットをテイクアウトし、東京行きの新幹線を待つ。先日の地震の影響で遅れが発生しているらしいが、想定ほど駅は混乱していなかった。遠距離の彼に最後に会った日から今日までの3週間は驚くほど早く過ぎていった。地元の友達が広島に来てくれたり、仕事が忙しかったりと色々な要因はあるけれど、時間が経つのが早かったからといって会いたい気持ちが薄まるわけではない。早く、早く、早く会いたい。


定刻に何時間も遅れてしまうおそれもあったけれど、数分の遅れで東京に到着することができた。最速の乗り換えで彼の職場の最寄り駅へ向かう。彼はよく「◯分早く会えるからね」と言って東京駅や家の最寄り駅など、いろんなところへ私を迎えに来てくれる。効率的とは言えないかもしれないけれど、進んで非効率を行動に移してくれていることに愛を感じる。そういえば、付き合う前もバイト終わりの私を迎えによく深夜に駅へ来てくれていたな。一年前と同じところを好きでいられることはきっと当たり前ではない。


盲目だと言われても仕方ないかもしれないけれど、久しぶりに会う彼はいつも脳内の彼よりもかっこよくて少し緊張する。それを後日彼に話したら「俺もご飯食べてるときに前向いたら「わっ、可愛い」って思うことあるもん」と言ってくれてありがたかった。客観的に見ても彼は整った顔をしていると思うが、私はそうじゃない。そうじゃないけれど、これからも可愛いと言ってもらえるように努力していたいな。


夕食に、オモコロチャンネルで紹介されていたつけ麺屋「やすべえ」へ。予習してくるつもりが2人ともすっかり忘れていたため、定番らしいメニューに味玉をトッピングしたものを注文した。魚介の香りが豊かで、麺が艶やかで、教科書のようなつけ麺だった。運良くスムーズに入れたけれど、私たちの後には列が出来ていた。ささっと食べて退店。近くにあったらたくさん来ちゃいそうなほど美味しかった。


彼は明日も仕事なため、早めに帰宅するかと思ったけれど、ちょうど目に入った喫茶店へ寄ることになった。疲れているだろうに私の荷物まで持ってくれている。優しさに応えたくてたくさん話をしたけれど、彼が私を笑わせている回数の方が多い気がして悔しい。9階の窓側の席で池袋の交差点を見下ろした。夜の東京はひとりで歩く人か、ふたりで歩く人が大半を占めていて、3人以上のグループはほとんどいないことがわかった。私たちもこの街のふたりの中のひとつとして見えているのだと思うと嬉しかった。遠距離恋愛だなんていう特別をしていないみたいで。


家に帰ってお風呂に入って眠った。彼のTシャツを借りて寝た。ずっと手を繋いでいた。


8/11(日)

6時起床。仕事の彼を玄関で見送ったあと、ベランダから顔を出すと彼が見上げて気づいてくれた。角を曲がって見えなくなるまで手を振った。彼も何度も振り向いてくれた。お昼休憩は一緒に過ごす予定になっているため自分の身支度を進める。洗濯をして簡単に掃除をして、簿記の勉強を30分だけした。全くやる気が出ない。本当はその30分だって読書やnoteを書くことに充てたい。


デニーズで待ち合わせ。混んでいるのに静かな店内で川上未映子の夏物語を読んで彼を待った。絶対に会えることが確定している待ち時間は幸福すら感じるなと思ったが、お昼休憩の彼が財布とスマホだけを持って急いで店内へ入ってきてくれた瞬間、会っている時間の方が幸せだなと思い直した。


ふたりともバジルのパスタを食べながらぽつぽつと話した。彼が私の手を握って「代わりに働いてほしい〜...」とこぼした。彼は「情けないこと言っちゃった」と言ったけれど、私はこういうあからさまな情けなさとか弱さを見るのが嫌いではないしむしろ珍しくて嬉しく感じるのでどんどんマイナスな気持ちを吐露してほしい。それで少しでも楽に働けたらいいなと思う。後ろ髪を引かれる思いで彼と解散。8月の太陽は殺人的だった。


阿佐ヶ谷の七夕まつりを覗いてみた。張りぼてがたくさんで雰囲気は涼しげだったけれど実際はあまりに暑くてすぐに退散してしまった。その季節にはその季節らしいことをしたいのに、暑さがかなりの障壁になっている。我慢しきれない自分の弱さに幻滅しつつ、池袋で実家への東京土産と自分の飲むゴンチャを手に入れて一時帰宅。


仕事終わりの彼と待ち合わせてインドカレー屋さんへ。お店までの道中は東京の真ん中とは思えないほど落ち着いていて、柔らかな木材の家具で統一された店内はカフェのようだった。かなり迷いつつ、彼がセットに、私は単品を頼んで3種のカレーやサイドのチキンをシェアすることにした。私の趣味でもう何度もインドカレーを一緒に食べているが、このお店のカレーは器も素敵でメニューの素朴なイラストにも癒された。


彼が、餃子作りや手巻き寿司のような作業の伴う食事は親密度が高まるような気がする、という世紀の大発見をして感動した。インドカレーはまさにそれだからである。器を褒めたりコースターのイラストレーターを調べたりしながらのんびり食べていたら1時間も経っていた。カレーはてんこ盛りで、楽しくなってナンを1枚おかわりした。どうにか食べ切り退店。こんなに食べてこの値段でいいんですか、と驚きつつ街へ。


街の広告やお店に対してさまざまなことを言い合いながら歩く。少し暑いけれど手は繋いだままで、喧騒の中で言わなくてもいいことをたくさん言う。夏休みの夜の池袋はぶつかりそうになるほどの人で溢れているけれど、なんだかこの世にふたりだけみたいな気持ちになった。囁き合うようで、実はロマンのない会話が私たちらしくて心地よい。カルディで変な飲み物をたくさん買って家路につく。彼と付き合って、ひとりがいちばんだという感情が自分にとっては偽物であることがわかった。ふたりでいたいよ。ふたりでしか出来ないことを愛しく思うよ。

インカコーラが美味しすぎました


8/12(月)

この日は彼もお休みで、夜は花火を見に行くという一大イベントがあった。朝食にはベーコンエッグトーストを作り、YouTubeを見ながら身支度をする。なんでもないご飯さえふたりで食べると楽しい。霜降り明星せいやとのコラボ動画をきっかけに私はアレン様にハマっている。かなり下品な場面も多いが、彼は文句を言わずに一緒にアレン様の動画を見てくれた。笑いすぎて支度が遅くなる。いいところがあまりに少ない。


魚食べたいね〜と話していると、彼が近所にかなり美味しそうな定食屋さんを見つけてくれたのでそこへ向かった。灼熱を歩く。彼が日傘をさしてくれたけれど、それでも元気がなくなるくらい暑い。10分もかからないお店までの道が永遠に感じたが、無事に入店。活気のある店内で新鮮なお刺身や魚の揚げ物を食べられて嬉しかった。定食を食べると自炊のモチベーションが上がる。最近の私は同じものを10日連続で食べるなど、かなり食をおざなりにしていたためやや反省。


食後は隣の駅のサーティーワンを目指す。道中で初めてパチンコの換金所を見て「ホンモノ」感に上がったりもした。サーティーワンではなるべく派手な色のフレーバーを選ぶという自分ルールがあるため、ポッピングシャワーを外すことが出来ない。彼は限定の抹茶のフレーバーを選んでいた。一年前は公園でコンビニアイスを食べていた人と、今はその人の部屋でテイクアウトしたサーティーワンを食べることが出来ている。あまりの幸せに目が眩む。彼が、ドライアイスに水をかけると煙がふわっと出て、ボウルから溢れているように見えるのに触れると確かに気体であるというおもしろ体験をさせてくれた。流しに捨ててしまえばそれだけなのに、わざわざ楽しいことを増やしてくれる彼のことを愛しく思った。


アイスを食べて、30分だけ、と話してふたりでお昼寝をしたのに気づいたら1時間も眠ってしまっていたらしい。彼のキスで目覚めた。花火大会に行く予定だったため、起きて手早く用意をしたけれど、その間もドキドキしていた。こんなことをしてくれる人だと思っていなかった。出会って一年経っても、知らなかったところがたくさん出てきて、その度にその全てを好きだと思う。


花火大会へ向かう途中で寄った日本橋の洋食屋さんはお盆のためかお休みだった。かなり楽しみにしていたし、今回の花火大会は屋台が出ていないらしいため、夕食を逃してしまった。ひとまず会場へ向かう。地下鉄は浴衣のカップルに溢れていた。来年は私も浴衣着たいなと話すと「なんか着てないのが悔しいくらいだもんね」と言ってくれた。彼にもぜひ着てほしいな、絶対に似合うので。


人混みの中をするすると抜けつつ、河川敷を目指す。まだ花火が上がってないどころか日も暮れていないのに、「今日一緒に来れて良かった」と彼が言った。あまりに真っ直ぐに言うから少し恥ずかしくて「まだ早いよ」と返したけれど、ほんとうは同じ気持ちだった。いつの夏からそう思っていたのかさえ忘れているけれど、私が好きな人と恋人同士になって花火大会に行ける日なんて来ないはずだった。


19時、花火が上がる。隣の外国人カップルが大はしゃぎで動画を撮ったり腰に手を回したりしていた。私と彼も初めは写真を撮っていたけれど、いつのまにかどちらともなく手を繋いでいた。花火はいくつも、いくつも上がる。大きかったり小さかったり、何かの形をしていたり、それが歪になっていたりしながらも止まらず上がる。花火の向こうの首都高をトラックが走る。世界が終わるなら今がいい。世界でいちばん大切な人が花火を見る横顔を見られたこの夜になら終わってもいい。花火は上がる。大切な話など何もしていなくて、綺麗だね、綺麗だねと言い合っていただけだったけれど、心が通っているとはこういうことのような気がした。花火が終わっても隣に彼がいた。失くさないように強く手を繋いで帰りの電車へ乗った。帰宅し、コンビニ弁当を食べそびれていた夕食に充てる。現実に彼を連れて帰ることが出来たような気持ちでいた。安心して眠った。


8/13(火)

6時起床。今日もベランダから仕事の彼を見送る。上京している高校時代の友達とのランチの予定があるため、支度して地下鉄に乗る。

東京の街をひとりで歩いているとき、隣に彼がいないことが不思議な感じがする。なんなら、広島や地元の街を歩いている時も不思議な感じがする。帰省したときに妹とショッピングモールを歩いていたのだが、いつもの感じで手を繋ぎそうになってしまった自分に驚いた。私たちは遠距離恋愛だし、22年生きてきてまだ数パーセントしか彼とは一緒の季節がない。それなのに、当たり前みたいな存在になってくれている。いないことを不思議に思うほど、いつも隣にいてくれていることを実感した。


4月ぶりに会う友達は元気そうで良かった。彼女はお盆期間も仕事なのに貴重な休憩を捧げてくれてありがたい。いつもキラキラしていて大人っぽくて、高校時代から姉のようだけれど私の話でたくさん笑ってくれるところが可愛いし好きだ。彼女は仕事もプライベートも大変なことがたくさんあるみたいだった。代わりに私のくだらない近況をたくさん伝えて別れた。お正月には一緒に地元に帰ってみんなで会えたらいいな。


彼の家に戻り、夕食を作る。ナスかズッキーニを食べたいというリクエストだったため、両方を使うことにした。麻婆茄子とズッキーニとベーコンのチーズ焼きを作ったけれど、いつも退勤している時間に彼からの連絡が来なくて少しだけ不安になった。少しだけ、は本当は嘘で、かなり心配になってしまい、電車の事故かな、とか職場が爆発された?とか、ありえない想像をしてしまった。けれどそのありえない想像はジンクスでもあり、「地震が起きるのは世界で誰も地震のことを考えていなかった瞬間である」というのを信じているからだ。最悪の事態を想定することで、安寧を祈っている。彼から「残業でした、、ごめん急ぐね〜」とLINEが来てほっとした。最寄り駅まで迎えに行く。


私の作ったご飯を喜んで食べてくれた。とても嬉しい。いちばん清らかな種類の喜びがこの瞬間にはある。料理は得意ではないけれど彼の喜ぶ顔が見たいので諦めずに頑張りたい。デザートにスイカを食べて、YouTubeを見て就寝。花火の上がらない夜も、僕らの別荘を観て笑う彼の声がよく聞こえるからいいな。


まだあと丸3日一緒に過ごせる。彼がお風呂に入っている間に、ふと「後悔しないように過ごさなきゃな」と思った。後悔したくない、なんてほんとうは思いたくない、彼のことを当たり前にそばにいる人だと思いたい。思いたいけれど、遠距離恋愛である以上、お互いにお互いがいない日々がある。それでも、寂しさや切なさすら抱く相手が彼で良かったと思う。目も耳も口も、全てに彼を感じて眠る。夢の中でも会えますように。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?