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透明日記「空の青が深くて散歩」 2024/07/08

暑い日が続いているけど、これからもずっと暑い日は続く。暑い暑いと言うのにも飽きた。だから、空の青が深いとか、暑い以外の夏も見るようにしよう。

朝、岡崎京子の漫画を読む。昨日読んだ『ヘルタースケルター』が面白かった。軽くて、深い。絵の余白が堪らない。他の作品も古本屋でパラパラめくって面白そうなので買っていた。読んだものは、ハッピーと残酷が表裏一体な話が多かった。すごい作家だ。

ご飯を食べる気がしなくても、食べると元気が出るということを、最近になって覚えた。朝と昼をちゃんと食べた。昨日の残り物の、鶏のもも肉を焼いたのとグリーンカレー。朝と昼は同じものを食べたので、三食同じものを食べたことになる。

夏の空はくっきりとして広い。深い青、ふかふかの雲、メリハリのある光。正午過ぎ、気持ち良さそうなので、散歩に出た。

出る前に、家の隅にあった日焼け止めを塗ったけど、粒子がざらざらとして、塗った肌がキラキラ光っていた。なんか嫌なので、新しいのを買おうと思った。

川辺は風が吹き荒れていた。太陽の光が鋭くて眩しい。川辺には、あまり生き物がいなかった。土手を走る自転車は少しだけあったが、散歩する人はない。雀もほとんど見なかった。夏の昼は影で休むのが鉄則らしい。

向かい風。二週間ぐらい前に刈られていた雑草は、膝の高さぐらいまで伸びていた。雑草は強い。

土手の斜面はヒゲのような長い草に覆われ、風に煽られ、緑の波を立てていた。鮮やかな緑の波を見ていると、海面によろめく無数の光を眺めたときのように、目が泳ぎ、頭が揺れて変になる。

風の行く方に振り向いてみると、土手の斜面の草々が、うすら白い緑色に染まり、靡いていた。わびしい緑がさわさわと鳴る。草は葉の裏で風を受けるのか、風上から見ると、うすら白い。風が緑を褪色させるかのよう。わびしいような風景だった。

風下から見れば、くっきりとした緑が生き生きとして騒ぎ、夏を祝う生命の宴会。

川辺のあちこちでミミズが干からびていた。し、つ、S、C、固結び、うにょうにょ、いろんな形で干からびていた。赤黒くて、怖い色。

リーリーと濁音混じりに鳴く虫はバッタだろうか。川辺の草むらで、ずっと鳴くのが聞こえる。たまにチチと鳴く虫の音もする。虫の姿は見なかった。虫も日光を避けるのか。

橋の下は風が強くて涼しい。川の岸辺にしゃがみ、下流の方をぼうっと眺めながら、タバコを吸う。風が見えるような気がする。ごおおっと川の上に流れている。川幅いっぱいの風に胸が膨らみ、心が広がる。

来た道を戻れば、追い風。太陽が背になり、少し楽になる。

土手の斜面にハトの群れが見られた。地面をつついている。五、六十羽かと思ったが、百羽ぐらいいた。鳥の群れは直感の二倍弱いる。前にカモを数えたときにも、そんなことがあった。

進路の上空をこちらへ、ツバメが飛んできた。頭上で泳ぐように飛んでいた。ツバメはいつも上手に飛んでいるが、今日の川辺は風が強い。向かい風で飛ぶのはむずかしそうだった。でもそれを楽しんでいるように見えた。

翼を閉じるとスイッと進む。翼を開くと風を受けて空に留まる。これを繰り返す。平泳ぎのリズムで空の中をスイスイ。風と遊ぶように飛んでいた。見ていると、急に左に折れたり右に折れたり、アメンボみたいに、ツッと、方向を変える。ほんとに飛ぶのが上手い。

家に帰ると、シャツの下のTシャツは汗でぐしょぐしょ。服を脱いで、扇風機の強風を受けながら、冷たい麦茶。ぷはーとやると、季節を感じた。小学生の夏だった。

Tシャツを着替え、一日を二回生きるような気分になる。Tシャツは何枚あってもいい。

捨て忘れていたペットボトルを捨て、その足でカフェに向かった。涼みながらタバコを吸う。散歩の印象をいくつか記録。汗ぐしょになったけど、いい散歩だった。風が良かった。

カフェを出て、古本屋。一昨日も来た。また岡崎京子の漫画を取る。前に古漫画屋の店主から聞いた作家、とり・みきの漫画もあったので手に取る。

レジには人がいなかった。本棚の間を全部覗いても、店内に誰もいない。人を呼んでも誰も来ない。ちょっと不思議な気分になった。

が、店外の壁面にも本棚はある。店番の老婆は外の本をいじっていた。うつむいてハタキを持って。顔の色が灰白色。耳が遠いのか、余程近くで呼ばないと気づかれない。

一昨日と同じように、西日を背に受け、漫画を運んだ。道中、ニベアの日焼け止めを薬局で買った。容器が一番カッコよかった。

夜、漫画を読んで、そばを食う。

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