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透明日記「あれこれ読んで散歩する」 2024/08/30

朝、晴れてる。健やかに晴れてる。楽しくなる。ベランダの物干しに掛け布団を干し、ベランダに影をつくる。影でタバコ。影を抜ける風が秋の感触。台風は秋を運んでいるらしい。

小説を読み終える。まだよく分からんが、すごい濃密な小説だった。知ってる言葉が知らない顔で出てくる。スラスラとは読み進めない。身体がことばに持っていかれる。深い読後感で部屋に倒れる。

むむむと天井を見ていた。リビングから、台風による各地の被害状況が聞こえる。さっき読んだ小説を読み返そうかと思ったが、重たく感じ、別の小説を読み返していた。口直しのように読む。ベランダで掛け布団が舞う。

昼過ぎ、昨日の炊きご飯の残りを食べる。食後、関東大震災後の都市計画について読む。鶴見騒擾事件。火力発電所の建設で、工事に当たった業者同士がケンカして死人が出た。総勢二千名が闘争に参加し、ピストル、機関銃、小型大砲まで持ち出されていた。ヤクザすぎる。おそろしい。

夕方ごろ、川辺を散歩する。風はあまりない。曇り空。低いところをずんずんと、灰色の雲が流れる。上層に白い雲。さらあっと広がり、空が高い。秋の空。

久しぶりに土手の下を歩く。夏のあいだ刈り取られなかった草が生い茂り、砂利道の両側に草が伸びる。肌に当たると痒い。

橋の下のコンクリートの上に、三角座りのお兄さんがいた。とてもキレイな三角座りで、土手寄りの中途半端な位置にいる。何するでもなく、まっすぐ川の方を向く。おもろい。からだを畳んで、黄昏れている。前を通り過ぎる。ニタニタしてしまうので、無理に川の方へ首を曲げた。

橋を抜ける。西の彼方に、光が条となって降る。うっすら眩しい。少し暑い。

生き物が鳴く。ギギとバッタが鳴くなかに、ヒリリリとコオロギが鳴く。生き物が飛ぶ。スズメがパラパラ、トンボがうじゃうじゃ。トンボは、土手の近くを気色悪いほど群れて飛ぶ。おちょくっているように目の前をツンと過ぎる。

砂利道の真ん中に、一抱えほどの低い草が茂っていた。いつもは無視して傍を通り抜けていたが、気になった。小さな丸い葉を付けている。しゃがんで、なでなでした。小さな丸みがポロポロと手に当たる。小人の陽気な躍りを感じる。二、三、小さな、見分けのつかぬ虫が跳ねた。暑いので、ほどほどにして発つ。

線路の橋の下にいるのは、ハトかカラスか。お尻を大胆に振る。カラスだ。カラスの前を通り過ぎるとき、飛び立たせないよう、少しカラスから離れて歩く。じっとして、こっちを見ていた。

少し先の橋の下、河岸の縁にしゃがんで休む。吹き抜ける風が涼しい。汗が引いていく。

少し上流の対岸の浅瀬に、掘り返されたような土くれが浮いている。土くれが動くと、ヌートリアだと気づく。浅瀬を歩いたり、泳いだりしていた。動きがとろい。しばらく見ていると、藪に入って見えなくなった。

下流の川の上をツバメが飛ぶ。三羽ぐらい。真っ直ぐ飛んで、上へ跳ね、ゆるく落下するように落ち、風のように空を流れる。そんな仕草をぐるぐると繰り返す。一羽、水面近くを飛ぶ。川面をつつくのか、小さな波紋をつけると、ちょんと跳ねる。再度、川面を滑るように飛び、ちょんと跳ねる。見惚れる。

腰を上げて帰る。土手の上を歩く。風が強くなる。川を見ながら歩いていると、ゴツゴツとした石の堤が崩れているところがあった。川の流れが一様でない。局所的に崩れた隙間に強く流れ、他のところは石が白く剥き出している。瓦礫でできた中洲のようだ。剥き出した石のひとつにカラスが佇み、疾く流れる川のあぶくを覗いていた。すごく気になる様子をしている。羽を少し膨らませる。小さく、一足二足、ほんの少し川に近づく。カラスが愛おしい。

灰色の雲が流れ続ける。西の端の山際から入道雲が出はじめた。親指の先っちょほどの丸みが、真っ白く輝く。みるみるうちに拳ほどに膨らんだ。

家に帰って本を読む。雨が降ったり止んだり。途切れ途切れにラピュタを観た。あらゆるシーンに、目がじんわりと溶け込むようで、涙腺がゆるむ。

それから、探ナイを少し観て、音楽を少し聴いて、寝た。

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