シュガースポットになっていく。

シュガースポットが好きだ。青いバナナを買っても、いつのまにか熟して、黒いそばかすが浮かんでくる。なんにもしてないのに、甘くなってきたんだなあ、とにこにこしてしまう。

いま、わたしはシュガースポットにいる、と思う。正確には「シュガースポットになりそうな場所にいるなあ」と感じながら過ごしている。

5月に転職して、東京から長崎県にある波佐見町に引っ越してきた。

波佐見町は、有田焼とひとくくりにされてきた、うつわの産地だ。波佐見焼として旗を立てて、いまもうつわをつくり続けている。

これといった最寄駅のない、山に囲まれた町。美しい棚田があり、たくさんの窯元さんが並ぶ。時間の流れが穏やかで、初夏のいまは緑があざやかな町。

勤めている会社はうつわの商社で、自社ブランドもつくっている。わたしはWebサイトの運営として仕事をしていく。

まだ働きはじめたばかりだけど、とても過ごしやすい。

思ったことをぽろっと言える環境にいるからかもしれない。

これまで厳しい場所にいたときは「それはほんとうに、考え抜いたことなのか」がつねに問われてきた。ラフな打ち合わせの場所でも萎縮してしまって、うまく発言できないことが多かった。戦地であって、ホームではなかった。そういう場所だから磨かれたこともあるけれど、削られたものもある。いつでも鎧をまとっていたような気がする。

この町に来て、なんだか急に重力がなくなったみたいに、こころとからだが軽い。

これからわたしは、時間をかけて、深くうつわのこと、波佐見町のことを知っていく。そして広めていく。それを周りは応援し見守ろうとしてくれているように感じている。

会社の人たちは、ふとしたときに声をかけてくれて、自動車学校を紹介してくれたり、使ってない自転車をくれたり、一緒に出かけてくれたりする。このあいだは蛍を一緒に見にいった。

ゆったりと甘やかな空気に包まれて、日々を過ごしている。

わたしのシュガースポット。まぶしい黄色のバナナに、うっすらそばかすができていくように。この町がまるごと、シュガースポットになっていく。

わたしがなにか特別なことをしたわけじゃない。ただ、すてきだなと思う人に出会って、仕事で住んでみた場所がいいところだった。勝手にバナナが熟していくように、居場所がちょっとずついい感じにできていく。

まだまだ知らないこと、知らない人、知らない場所がいっぱいあるけれど、どきどきしながらめいっぱい期待して、暮らしている。

田舎だからすばらしいとか、都会だからダメだとか、そんなんじゃなくて。ゆたかさって、自分に合った、すこやかでいられる居場所、『シュガースポット』を持てることなんじゃないだろうか。

それを探すための、ここにたどり着くための青い時間も、いま振り返ると、ゆたかだった。

バナナよりは人生のほうが熟すのに時間がかかる。

焦らないで、シュガースポットができて人生が甘くなっていくことを信じて、今日も笑っていたい。

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