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寅年を迎える準備

日曜日、絵付の先生の工房へお邪魔した。全然勉強のためじゃない。先生の家の木に実ってる柿をもらうためだ。食いしんぼうの用事。しかも先生が高枝切り鋏で採ってくれるので、わたしはキャッチするだけ。

こんにちは、こんばんは。くりたまきです。

いつものように、工房の入り口で事務の方に挨拶して、工房のなかへ入っていく。皿板という細長い板の上にたくさん素焼きの焼きものが並んで、それが天井近くまで何段も積まれている。

そっと奥へ進むと、ラジオを流しながら絵付をしてる先生の後ろ姿があった。そっと近づいて、声をかけずに手元を見つめる。わたしの片手を開いたより少々大きいくらいのサイズの平らなお皿に、寅の絵が描いてあった。線描きは終わっている状態で、そこに色をのせていく。大きな濃筆(ダミふで)と呼ばれる筆を使って、スイスイと。

動物の色を塗るのは、難しいんだろうなあ。わたしはまだ花や果物ばかり練習している。

先生がさも簡単そうに寅に色を塗り命を与えていくのを、黙って3枚ほど見ていた。

12年に一度しか描かない、絵柄を描く。この時期には、そういう絵付の仕事が増える。贈りもの用に、干支を描いた皿や、干支の動物の姿をした箸置きなどを求める人がいるからだ。もちろん自家用に買う人もいる。

70代の先生は、12年後も寅を描いているだろうか。ぜひとも描いていてほしいと勝手に願う。きっと先生が育てた絵付師たちも、12年後どこかで寅を描いているだろう。いまも絵付教室では、課題で寅の絵を描いている人が多い。

「先生、こんにちは〜」

声をかけると、先生が振り返った。

「ありゃ、お前さん来たね。そしたら、柿をはやく採りに行かんば。日が暮れるぞ!」

一緒に、先生の家のお庭へ歩いていく。葉も落ちた柿の木には、熟れた最後の柿が実っていた。もうシーズンも終わりだ。先生のうちの柿は甘くておいしい。

先生が採ってくれた柿を袋に入れていく。

わたしはライターをしていて、絵付師ではない。まだ季節外れのざくろの皿を描いているのだ、どうにも進みが遅い。好きで習ってるだけの素人にも、先生はやさしい。今後も先生から教わった絵付を生かせるチャンスはあまり無さそうでちょっぴり申し訳ない気持ちにもなる。

でも、書いている。先生のことを。

先生は、柿の収穫から戻ったあとも、お皿に寅を描いていた。まっすぐにこちらを見てくる、強そうな寅だ。

わたしはライターとして、来年はどんな寅を書いていくのだろうか。強くて、まっすぐなものを書けたらいいのだけれど。

30minutes note No.913

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