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偽物の「コンクリート打ちっぱなし」って?

40年以上も建設関係の仕事をしている父と散歩中、彼が住宅街でとある一軒家を見ながら、こんなことを言った。

「このコンクリートの打ちっぱなし、きれいに見えるでしょ。でもね、きれいに“見せてる”だけなんだよ」

どういうこと? と思って、つい質問ぜめにしてしまった結果、おもしろい話を聞けたので、インタビューっぽくまとめてみます。

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父:
このコンクリートの打ちっぱなし、職人さんの力量で、かなり出来が違うんだよ。きれいに仕上がらないと、やり直しも大変。だから、ちょっと見た目がダメだと、コンクリートの地肌っぽく見えるように塗装してるの。この模様みたいな「セパ穴」っていう丸い穴のところは色を変えて塗ったりしてね、わざわざやるのよ。

わたし:
ええええ! そうなの? ほんとうだ、穴のところ、暗めの色で塗ってある。塗ってあったらさ、もう「打ちっぱなし」って言わないんじゃ……? 一見しただけじゃ、わからなかったよ。

父:
実は違うの。だから、ほら見て。一見すると隣家のコンクリートの方が汚いようだけど、隣のほうがよくできてるよ。

わたし:
へえ。素人にはわからないよね。わざわざ上から塗ってるような、ちょっと下手な……偽物のコンクリートだと、なんか問題ってあるの?

父:
うーん、わかりやすいところだと、ヒビとかが入りやすいとか、耐久年数が変わってくるかな。ヒビが入ると、中の鉄筋が腐食して、内側からコンクリート全体がダメになっちゃうこともあるの。

わたし:
なにそれ、怖い。強度を高めるために入ってる鉄筋が……!

父:
表面から内部の鉄筋まで何センチ以上コンクリートを分厚くしないとダメとか、基準もいろいろあるから、ヒビが入ったら終わりってわけじゃないんだけどね。公共の建物は基準も厳格だよ。

わたし:
コンクリートの打ちっぱなしって、自分で業者を選べるわけじゃないし、当たり外れがあるって辛いね。長く住む家だったら、きちんとした業者さんにお願いしたいって思うけど、技巧の差もわからないし……。父だったら、どうやって誰に頼む?

父:
なんでも屋さんじゃなくて、型枠大工さんに頼むかな。コンクリートを流し込む型枠を作ってくれる、専門の業者さん。これが大事。コンクリートを大量に流し込むと重いから、しっかりした型が重要なんだ。現場で見てると、型枠大工さんは使ってる道具も多様で、やっぱり技術的にも上手いよ。

わたし:
型枠大工さんかあ。はじめて聞いた。

父:
型を外すのが専門の業者さんとかもいるよ。あと工事前に、元々の基礎部分を壊してならすのが専門の業者も。ぜんぶやってるところもあるけどね。

わたし:
型枠大工さんに頼めば、安心?

父:
そうとも言えないんだなあ。とくに年間でも工事が集中する忙しい時期とかは、型枠大工さんでも、あんまり上手じゃないひとが現場に来ちゃう場合もあるんだ。

わたし:
えええ! じゃあ、どうやって見分ければいいの……?

父:
やっぱり、できたコンクリートの打ちっぱなしを見て決めるのが確実だと思う。住宅展示場みたいなところで、継ぎ目や歪みのない、もちろん塗装もしてないコンクリートを見つける。それを作ってる業者さんに頼めばいいんじゃないかなあ。

わたし:
なるほどね〜。

父:
ここ何十年で、打ちっぱなしの壁だけじゃなく、たくさんコンクリートの建築物がつくられてきた。そう遠くないうちに、耐久年数を越えるものが増えてくるよ。

わたし:
じゃあ、古い建物は大変ってこと?

父:
いや、古いコンクリートは丈夫なんだ。

わたし:
どうして?

父:
砂利の質がいいから。昔は川や海辺から、材料になる砂利を採ってたの。でも採り尽くしちゃって、今度は山から砂利を採ってくることにしたんだ。水流に磨かれた丈夫な砂利と、山から掘ってきた砂利。全然違うんだよ。

わたし:
コンクリートって奥が深い。

父:
パッとみただけじゃ、わからない。しかもすぐにダメになるわけじゃないから、数年経ってから、そのコンクリートの真の品質がわかるんだ。最初の5年、10年経ってもヒビが入ったりしなかったら、そのあと何十年も保つよ。

わたし:
うーん、難しい買いものだなあ。
ちなみに父が、我が家の壁をコンクリートの打ちっぱなしにするってなったら、誰に頼む?

父:
2メートル以下の壁だったら、自分で作るかな。

わたし:
え。

父:
いろいろ法律があって、2メートル以上の壁を作るのは面倒なんだ。でもそれ以下だったら、自分でやるかな。何人か職人さんに手伝ってもらって。あれって3、4人はいないと作れないから。

わたし:
父よ、コンクリートの壁、作れるんかい。

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