「面白い」よりも「愛される」ゲームが売れる時代 〜プレイヤーとゲームの精神的結びつき〜

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ゲーム性の模倣、精神的な結びつき

 近年ではバトルロワイヤルゲームが隆盛を誇っています。
 2017年の『PLAYERUNKNOWN'S BATTLEGROUNDS』(現: PUBG: BATTLEGROUNDS)を皮切りに、『FORTNITE』や『APEX LEGENDS』などのゲームが全世界で楽しまれています。
 2019年には『Auto Chess』のような革新的なゲーム性がスマートフォンに登場すると、『Teamfight Tactics』や『Dota Underlords』(Auto ChessはもともとDota2のMODですが)などのオートチェスライクゲームが次々に登場しました。このようなオートチェスのゲームデザインを使ったゲームは、東方やデジモンなどのIPからも出ており、明らかに模倣しているカジュアルゲームも数えきれないほど出ました。

 ここから分かるのは、近年では「優れたゲーム性も簡単に模倣される」ということです。情報の速さや開発技術の向上により、売れているゲームの作りは簡単に模倣することが可能です。以前ほど、最初に面白いアイデアを提示した者が全てを制す時代ではないと言えるでしょう。先行者利得もないわけではありませんが、それに早期に追随するセカンドムーバーも大きな利益を得ます。
 では、「ゲーム性」や「面白さ」という点で差別化ができないとなると、何がゲームを他のゲームと違うものたらしめる要因となるのでしょうか?
 今回はゲームデザイン自体ではなく、その外側で人を惹きつける要素を検討していきます。

良いものを作れば必ずしも売れるわけではない時代
 良いものを作っても売れない、模倣されるという話はゲーム業界に限ったものではありません。
 現代では最終的な製品(=アウトプット)に差は生まれづらいため、そのプロセスでこそ差が出るという「プロセスエコノミー」という概念があります。インターネットにより情報はすぐに共有され、新しい技術もすぐに陳腐化していき、結局どのメーカーの製品も似たり寄ったりの性能になってしまいます。
 プロセスエコノミーは、製品が市場に出る前の段階で、ユーザーと何らかの繋がりを持ち、コミュニティや共犯関係を構築することを重視します。例えば、漫画家が漫画の制作過程をネットで配信して投げ銭をもらったり、クラウドファンディングで先行投資を受け、ユーザーと共に製品の開発段階を共有することでコミュニティが形づくられる、といったものです。
 それが世に出る前に何らかの関わりを持ったユーザーは、他の似た製品とは異なった価値をそれに見出し、熱心なファンとなりコミュニティを作り、口コミなどでさらに多くのユーザーを惹きつけます。このようなプロセスは簡単には模倣することができません。
 ここから分かるのは、ユーザーとゲームなどの製品について、何らかの精神的な結びつきを作ることが、長く支持してもらうのに重要ということです。

人はどんなものを大切にするのか
 では、ゲームとプレイヤーの精神的な結びつきとは何でしょうか。
 心理学者のミハイ・チクセントミハイは、シカゴの貧しい家庭から裕福な家庭までの82世帯に対して、「家の中にあるもので、あなたにとって特別な物は何ですか」という質問を行っています。回答の中で上位に来たものは、家具や芸術品、写真などでした。理由は、「私と夫が買った初めての品」「他の家族からプレゼントされた」「私が自分で作ったもの」「昔の出来事を昨日のように思い出させてくれる」などの精神的な要素からでした。
 機能が良いことや感触が好みなどの実用的、物質的な回答もありましたが、上位の理由はチクセントミハイが「思い出」「つながり」「経験」などでまとめた要素でした。
 このようなものは簡単には模倣できそうにありません。ゲームももちろん実用的な側面(=プレイして楽しい)で愛されることはありますが、そのゲーム経験や思い出を通じてゲームが愛されているということも直観的に理解できるものです。
 例えば、ハンティングゲームというジャンルを確立させた『モンスターハンター』シリーズは仲間と協力して強力なモンスターを倒すという経験や一緒にプレイした仲間との思い出が唯一無二であり、熱狂的なブームを巻き起こしました。例に漏れず、いくつかの類似ゲームも出ましたが、本家を超えるまでにはならなかったのはそのような精神的な充足までは模倣できなかったと考えることができます。そして、そのような充足感をくれるモンスターハンターは、明らかに他のゲームと差別化され、今や新作が1000万本~2000万本近く出荷されるシリーズとなっているのです。

 長くプレイヤーを繋ぎ止めておかなければならないオンラインゲームやソーシャルゲームでは、そのような要素の重要さは認識されていたようで、それについての研究・調査もいくつか見られます。

ゲームが提供する「居場所」と「アイデンティティ」
 別の角度からも見てみましょう。ゲーム研究者の野島美保は、オンラインゲームについて大規模なアンケート調査を実施し、何がゲームの「客単価」「定着性」に影響を及ぼしているかを調べています。 結果は、ゲームの中でまだ知らないことが沢山ある、もっとこのゲームがうまくなりたい、などのゲームデザインに影響される要素には客単価を上げる影響はあるものの、定着性には貢献していないことが分かりました。 では何がゲームの定着性に貢献するかというと、野島が「コミュニティ」「アイデンティティ」とまとめた項目でした(「コミュニティ」は客単価にも影響を及ぼしていました)。 コミュニティは、ゲーム内で友人と遊んだりチャットをする、ギルドなどのコミュニティに所属している、知らない人を助けたり教えたりする、というような交流が楽しいという回答で、プレイヤーがゲームに「居場所」的な要素を見出していることを示しました。

インターネット上でも、人々は居場所を求めている。毎日アクセスしてほっとできる場所、様々な人との交流、わくわくする高揚感、現実とは違う人格をつくり上げる楽しさ。居場所とは、人と人とが集まるコミュニティに、ユーザーの心理的価値がプラスされた状況を指す。「ここに属している」という帰属意識が満足や癒しにつながっている状況である。

 アイデンティティは、ゲームの中で自分らしくいられる、理想の自分をゲームの中で実現できている、ゲームの中では違う性格をつくっている、というような回答です。オンラインゲームの仮想空間では、ユーザーは現実とは異なるアイデンティティを持つことができるとし、このことを野島は「バーチャル・アイデンティティ」と定義しています。

バーチャル・アイデンティティが強固に形成されているということは、ユーザーがその仮想世界に心的に没頭していることを意味する。言い換えると、アイデンティティを実感する仕組みを作ることで、娯楽や居場所としての仮想世界の価値を向上させることができるのだ。……ユーザーにどのようなアイデンティティを付与するかということは、コミュニティマネジメントの第一歩であると考える。


 また、同じくソーシャルゲームについて大規模なアンケート調査を行った田中・山口は、「無課金者」「軽課金者」「重課金者」計5862人に対して、ゲームの何に楽しさを見出しているかを調査しています。
 その結果、人と協力すること、自分が強くなること、お気に入りのキャラを育てること、の3つが上位となっており、無課金者、軽課金者、重課金者の性質による違いも見られませんでした。
 自分が強くなることはゲームデザインによってもたらされる楽しさですが、人と協力すること、お気に入りのキャラを育てることは、ゲームにおける何かとの精神的な結びつきによるものと考えることができます(協力については、ゲームデザイン的な楽しさの面も含まれていそうですが)。

まとめ:精神的な結びつきが生まれるゲームが愛される
 ここまでで分かったのは、いまや面白いゲームもすぐにまねをされて差異がなくなってしまうこと、人はモノの思い出やモノを通した経験、居場所などの、モノがくれる精神的な充足感に満足すること、それらは簡単に模倣することは難しい、ということです。
 ゲームの面白さはすぐに模倣されてしまう状況では、ゲームとプレイヤーの精神的な結びつきを作る試みが、差別化のためには必要になります。それは、市場に出る前のプロセスを共有したり、ゲーム体験を通した思い出であったり、ゲームがくれる居場所的な安心感、所属感であったり、あるいはゲーム中に現れる自分の特別なアイデンティティであったりです。
 そういったものが、単にゲームとして消費されて終わるゲームと、プレイヤーが自発的に大会を開催するなどして長く遊ばれるゲームの違いではないでしょうか。
 そのようなプレイヤーとの精神的な結びつきを作るためには、ゲームに絡めたオフライン・オンラインのイベントや、SNSでの開発情報公開、ファンアートの募集など、やり方はいろいろと考えられます。

 ただし、新しいゲーム性を提示する、ゲームデザインをブラッシュアップする、ということが不要というわけではもちろんありません。ここまでの話は、すべて「高いクオリティがある」ということを前提とし、それがまねされるとしたらどこで差別化をするか、という議論になります。そもそものクオリティが低ければ、まずプレイヤーの興味を引くことから難しいと考えれられます。
 面白いアイディアはすぐに模倣され、模倣した側の方がヒットすることもあるという厳しい状況になってきていると感じますが、その中でもやはり面白さを追求していれば、それがプレイヤーの経験や思い出として残り、長く愛してもらえるということもあります。
 今の時代は、他のゲームと差別化し、愛されるゲームになるには「精神的な結びつき」という観点も必要になってくるでしょう。


【参考文献】
『モノの意味ーー大切な物の心理学』ミハイ・チクセントミハイ/ユージン・ロックバーグ=ハルトン,誠信書房
『人はなぜ形のないものを買うのか 仮想世界のビジネスモデル』野島美保,NTT出版
『ソーシャルゲームのビジネスモデル フリーミアムの経済分析』田中辰雄/山口真一,勁草書房
『プロセスエコノミー あなたの物語が価値になる』尾原和啓,幻冬舎

『モノの意味ーー大切な物の心理学』の共著者であるミハイ・チクセントミハイ氏は、フロー理論の提唱者でもあります。
『人はなぜ形のないものを買うのか 仮想世界のビジネスモデル』は2008年に出版されたやや古い書籍ですが、著者の野島さんはヘビーゲーマーでもあり、オンラインゲームについて面白い考察がされた、興味深い内容でした。

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