ゲームの楽しさを増加させる4つの要因

前稿では、プレイヤーがゲームにおいて楽しむものとして「フィード期待」を挙げました。


今回は、そのフィード期待はゲームを進めていくうちに強化されるということを検討していくことにします。

フィード期待は、「良い結果(=フィード)」を期待している状態ですが、それは意思決定の成功率の上昇と、課題解決が可能という認識の高まり、この二つの要因によってもたらされています。
なぜなら、ゲームの中では意思決定の成功率が上がるほどフィードを期待できるためです。
ただし、ゲームは通常、ゲームが進むにつれて課題の難易度は高くなっていくようにデザインされます。
その場合はその時点での意思決定の成功率は下がるが、経験的に課題は試行錯誤して解決できるということは理解しており、また、それによって培った知識や技能から、課題の解決が可能という認識は高まっているはずです。
それにより、フィードを得られる期待が発生することになる。
これが前稿での結論です。

前稿では、ゲームの中に設定されている意思決定の要求は、一度一度の現象ではなく、繰り返していくことでさらにフィード期待は高まっていくとも述べていました。
実は、フィード期待によって得られる楽しさは様々な要因によって増大されると考えることができます。
ここからはその要因となる以下の概念について説明を行っていきます。

①フィードのループ構造
②自己効力感
③知覚的流暢性の誤帰属仮説
➃フロー

①フィードのループ構造
例えば、
①RPGでボスエネミーを倒したとする。
②ボスエネミーを倒すと、装備やお金が手に入り、
 レベルが上がってステータスが上昇する。
③それによって、同じエネミーを容易に倒せるようになったり、
 さらに強いエネミーを倒せるようになる。

書いてみるとごく単純なゲームの進行です。
これをフィード獲得、フィード期待の流れとして解釈すると、

①フィードA(ボスエネミーの撃破)期待 → フィードA(ボスエネミーの撃破)獲得
②フィードB(装備)、C(お金)、D(レベル上昇)、
 E(プレイヤー自身の思考判断力上昇)獲得
③フィードF(戦闘の容易化)期待

フィードA(ボスエネミーの撃破)を獲得すると、最終的には別のフィードFの期待が発生することになります。
このフィードFは、フィードAの獲得によってもたらされた別のフィードB~Eによって発生しており、結果的にフィードAを獲得すると、「別のフィードの獲得」と「新たなフィード期待」が発生するような構造になっていることが伺えます。
また、上記のフィードFを獲得すると、同じサイクルが発生することも分かるかと思います。これが「フィードのループ構造」になります。多くの人気ゲームでは、このようにあるフィードを獲得すると、別のフィードの獲得が発生し、それにより新たなフィードが発生するようになってます。そして、それは繰り返し発生するような構造にデザインされていることがほとんどです。
フィード獲得→フィード期待の流れがループするようなフィードのループ構造によって楽しさは薄まることなく、より多くのフィード期待が発生し、プレイヤーをより長い時間楽しませることができるようになっていると言えるでしょう。

②自己効力感
自己効力感(self-efficacy)とは、自分がある状況において必要な行動をうまく遂行できると、自分の可能性を認知していることを指し、心理学者のアルバート・バンデューラによって提唱されました。
フィード期待は、①意思決定の成功率の上昇、②課題を解決できるという認識の高まり、によって引き起こされますが、そのうちの後者に影響を与えるものと言えます。
この自己効力感は、自身の成功体験によって醸成、強化されることが分かっています。つまり、フィードのループによって意思決定の成功が繰り返されるたびに自己効力感が強化され、それが課題解決の自信になり、さらに強いフィード期待を生む要因となるのです。

③知覚的流暢性の誤帰属仮説
知覚的流暢性の誤帰属仮説(misattribution of perceptual fluency)は、ある刺激の処理が容易ことによって感じる快感を、その刺激を発生させている対象自体への好意的な評価に誤って帰属してしまうことを指します。よく会う人や、よく聞く音楽ほど好きになってしまうという単純接触効果の説明にも用いられているようです。
例えば、数学の問題をすらすらと解くことができるのは気持ちが良いが、それはすらすらと解けているという現象自体が快感の源になります。しかし、その評価は「数学」という別の対象に誤って帰属され、数学にポジティブな印象を持つような結果になります。
つまりは、よく関わるものについてはその理解が進み、処理が容易になることで快感が得られるが、それが「処理の容易さ」ではなく別の分かりやすい対象によるものだと勘違いすることです。

ゲームにおいては、ゲーム内の意思決定が熟練してくると難しい判断を求められる場面でも比較的速く正しい答えを導き出せるようになっていきますが、フィードがループしていくことにより、そのゲーム内の意思決定に熟練し、その情報の処理が流暢になっていきます(=判断が早くなる)。アクションゲームなどで、難しい状況を素早い判断で切り抜けるのはとても楽しいものだということは分かるかと思います。その情報の処理の滑らかさ自体がプレイヤーの楽しさとなり、さらにその楽しさは、そのゲーム自体の印象も良くすることになるのです(ゲーム自体に評価が帰属される)。

➃フロー
フロー(flow)とは、人がある物事に没入している状態を指す、心理学者のミハイ・チクセントミハイによって提唱された概念です。今では世界的に広く知られており、時折ゲームに関する分析でも言及される。
人がこのフロー状態に入るにはいくつか条件が存在します。

①自身の能力と目標の難度が釣り合っていること
②フィードバックがあること

自身の持っている能力に対して、達成すべき目標が高い場合、不安が発生してしまいフローは発生しません。逆に、自身の持っている能力に対して目標が低い場合も、退屈さを生んでしまうためフローは起きません。簡単すぎず難しすぎない、適度にチャレンジングな目標がある場合にフローは生まれます。
また、ゲーム中の意思決定には明確に成功/失敗があり、それは即座にフィードバックされます。失敗なら失敗と分かり、改善の必要性が伝えられ、改善を促される。試行錯誤の末に達成した場合は、成功と即座に結果がフィードバックされる。さらに、多くのゲームではフィードのループも起こります。その結果、さらに高い目標がプレイヤーに与えられることになります。
結果が即座にフィードバックされ、トライアンドエラーを繰り返して意思決定が熟練していくフィードのループ構造は、フローを生み出しやすいデザインと言えるでしょう。

それでは、この辺りで本稿のまとめに入ります。
よくデザインされたゲームは、フィードのループ構造を持っており、フィード期待が新たに生み出されていくようになっている。また、フィードはループすることにより、自己効力感の強化、知覚的流暢性の強化とその帰属、フローの発生により、さらに大きなフィード期待が生み出されていきます。このような構造こそが、ゲームの構造という面においての、楽しさの源泉であると考えられます。


【参考文献】
『激動社会の中の自己効力』アルバート・バンデューラ,金子書房
『好き嫌い 行動科学最大の謎』トム・ヴァンダービルト,早川書房
『フロー体験 喜びの現象学』M・チクセントミハイ,世界思想社


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