1年間の実践を終えて

一年間の体育実践が終わった。「New体育論」と銘打って、大学院で学んだスポーツマネジメントを生かした今までにない体育を標榜し、実践を重ねてきた。このnoteを含むマガジンやTwitterでたくさん発信してきたものには、実践記録も構想段階でしかないものもどちらもあるが、実際に子供たちはどのように感じたのだろうか。一年間の実践をすべて終え、最後に子供たちに率直なアンケートを回答してもらった。

このアンケートで聞いたことは非常にシンプル。
「今年一年間の『体育』はどのくらい満足ですか?(5段階リッカート)
「特に印象に残っているものは何ですか?
(自由記述)
の2つだけである。尚、体育だけでなく他の教科や学校行事についても同様の質問を設定した。



早速、結果を見てみようと思う。

図1

アンケートを回答してもらった36人の結果がこうなった。一目見てわかるように、今年度の体育は子供たちに大きな体験をさせることができたといえるだろう。実に75%が最高評価の満足度を選び、9割以上が肯定的な評価をしてくれた。自由記述から、子供たちがどんな運動体験に満足してくれたのかを読み取ると、多く上がったのは次のものだった。

(1)ランニングゲーム(13人)

もっとも多かったのはランニングゲームに関するコメントだった。今年度は学校全体で「持久走」を廃止し、代わりとなる思考型のランニングゲームを取り入れた。主に実践したのは、①駅伝、②マススタート、③バイアスロン(トラック周回+ボール的あて)である。特にチーム戦である駅伝や、オリンピック種目であるバイアスロンにボールを取り入れて模したレースが大変好評だった。ただ走るだけでは疲れるイメージしかなく、これまでは「体育嫌い」を生む温床だった持久走を、ここまでイメージ刷新できたのは非常に意義のある成果であるといえる。

(2)ベースボール5(10人)

ついで多かったのが「Baseball5」に関するコメントだった。コロナ禍で制限が多かった中で、唯一できたチーム種目だったベースボール型は、最新のスポーツを取り入れた実践を行った。5人という絶妙な人数や手軽にベースボールの奥深さを味わえるルール設定は、実践をしながら私も非常に学びがあり、楽しいものだった。この単元は毎回授業後にアンケートを取り、参加態度や満足度の変化をグラフで可視化するなどして、個人の楽しみとは別の集団(チーム)の楽しみを大切にするように指導してきたところでもあった。「協力するのが楽しかった」「みんなで作戦を立てて、それが決まるとうれしかった」などのコメントもあり、数少ないチーム種目の体験を存分に満喫してくれたことがうかがえた。

(3)跳び箱・マット運動(7人)

跳び箱運動も、従来とはまったく異なる形式の実践を試みた。これまでのような「正しい姿勢で美しく跳ぶ」とは180度視点を変えた「自分の好きな跳び方で自由に跳ぶ」という跳び箱運動にした。また、マットやステージ、肋木など体育館全体を使ったアスレチックコースを毎回設営し、パルクールのように動き回るような運動が中心の単元だった。従来の跳び箱は「より高く、より美しく」という技能偏重の象徴ともいえるような種目だったため、子供の間でも好き嫌いが真っ二つに割れていた。しかし、「自分のできる越え方」で進むことで、技能に合わせた楽しみ方を全員ができるようになり、満足度が非常に高くなったと考えられる。

その他にも、バルシューレスタイルの様々なボール運動や、SPLYZA Teamsというアプリで自分の映像を分析しながら進めたハードル走単元に関するコメントもかなりの数がみられた。さらに、私にとってうれしかったのは、オリンピック・パラリンピックに関するコメントが多かったことである。わずか半年の間に夏冬2回のオリンピック・パラリンピックがあるという極めて珍しい年でもあったが、それぞれの大会で私が競技や選手の紹介をシャワーのように浴びせていた。競技のルールや見どころをフリップ付で紹介するビデオを撮影してGoogle Classroomに掲載したり、休み時間や授業中に教室でリアルタイムの観戦を積極的に行ったりした。また、大会で行われた種目をモチーフにしたゲームを体育の中で体験させることで、選手たちがどんなかけひきやバトルをしているのかを味わわせることもできた。

それらの体験から、より観戦に興味を持ってくれた子や、新しいスポーツにたくさん出合った子なども多くいたことだろう。とにかく学校での体育は、世の中のスポーツとの「接点」を増やすことが目的であるため、オリンピックという絶好の機会を生かすことができたのは、私にとっては狙い通りでもあり非常にうれしい結果であった。


子供たちが挙げてくれた単元や運動は、どれもnote等で紹介したものばかりだった。このような結果を受けて、今年一年間いろいろな学びや工夫をしてつくってきた運動体験が間違っていなかったことが証明された気持ちになった。何かが成長したかどうかは正直わからない。でも、個人的に体育において最も重要である「楽しかった」という感情、すなわち毎回の授業の満足度がこんなにも達成できていたことは、とても自信になる成果である。

一方で、今年の体育に肯定的な評価をつけられなかった3人の子供にもしっかりと目を向けたい。この3人は学級内でも特に運動が苦手な3人でもあり、元々体育に対するイメージがネガティブだった。どんな運動でも(音楽でも算数でも)その活動を楽しむためには最低限必要なスキルがある(私はこれを「エッセンシャルスキル」と呼んでいる)。エッセンシャルスキルをなるべく低く設定することで参加のハードルを下げる工夫はこらしていたが、「できない」「やめておく」と断念する種目も少なくなかったのは事実である。やはり小学校低学年までの運動経験が極端に乏しい子をどのように楽しませるかというのは、次に考えるべき課題になるだろう。

まずは1年目としては十分すぎる手応えを感じ、それが数値としても表れた「New体育論」。まだまだやりたいことはたくさんある。来年度、どんな体験を用意しようか、今から考えてもわくわくする。引き続き実践やアイデアの紹介をしていくので、参考にしていただければ幸いである。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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