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学校でしてほしいオリパラ教育 ~from Tokyo2020 to Beijing2022~

2021年夏、新型感染症の影響で1年延期となったTokyo2020大会が厳戒態勢の中で実施された。無観客となってしまったことは非常に残念だが、選手たちの輝きが全く損なわれることはなかった。私はこの世で何よりも好きなオリンピック・パラリンピックというスポーツイベントが、自国で開催されるという奇跡的なチャンスを最大限に楽しむため、大会ボランティアとして延べ20日間選手村で選手たちのサポートに従事した。ボランティアの仕事がない日も、自宅にこもって多い日には一日10時間、延べ100時間以上の試合観戦を楽しんでいた。

そんなオリンピック・パラリンピックの大ファンである私だからこそ、学校でのオリパラ教育は大切にしたいと心から思う。しかし、それは単に「たくさんやればいい」という話ではない。どんなねらいを持つか、何の題材を扱うか、子供に何を伝えるかなどの焦点がずれてしまえば、むしろオリンピック・パラリンピックの「価値」に気づけなくなってしまう。

1年間の延期もあり、夏季大会のわずか半年後に冬季大会が開催されるのは史上初めてである。自国開催で日本代表選手たちの史上最高の活躍を目の当たりにした我々日本人にとって、次の北京2022大会にその「オリンピック熱」をどうつなげていくかは、オリパラ教育を担う者にとって極めて重要なミッションなのだ。では、一体学校は何を扱い、子供たちに何を伝えればよいのか。

オリパラ教育の意義と内容

そもそもオリパラ教育とは、何をどのように伝えるものなのか。スポーツ庁は、有識者会議の報告書の中で、オリパラ教育の目的を次のように示している。

1)スポーツの意義や価値等に関する国民の理解・関心の向上
2)障害者を含めた多くの国民の、幼少期から高齢期までの生涯を通じたスポーツへの主体的な参画(「する」「見る」「支える」「調べる」「創る」)の定着・拡大
3)児童生徒をはじめとした若者に対する、これからの社会に求められる資質・能力等の育成
の3つを、オリンピック・パラリンピックを題材として推進していくこと

さらに、これら3つの目的を達成するために、扱うべき内容を「オリンピック・パラリンピックそのものについての学び」と「オリンピック・パラリンピックを通した学び」の2つに大別している。
前者は、大会の歴史やオリンピック精神、パラリンピックの意義などの社会的背景に関する内容、各競技内容や出場するアスリートに関する内容、商業化やアンチドーピングなどの大会を取り巻く問題に関する内容などがある。
後者は、スポーツマンシップやフェアプレー精神、チャレンジや努力の大切さなどの道徳的価値に関する内容や、健康増進や自己実現などのスポーツの効用に関する内容、海外文化や多文化共生社会、SDGsなどのグローバルな社会的課題に関する内容などがある。

オリパラ教育

Tokyo2020までのオリパラ教育

Tokyo2020に向けたオリパラ教育の実態を調査した報告によれば、2017年1月時点で、「オリパラそのものへの学び」の実施率が小学校25.0%、中学校28.1%、「オリパラを通した学び」の実施率が小学校31.3%、中学校28.1%だった。また、扱われた内容については、「アスリートのパフォーマンスや努力」「ルールの尊重やフェアプレーの精神」「パラリンピックの意義や特性」などが多く、大会の文化的背景や道徳的価値に焦点を当てたものばかりであった。さらに、同調査によれば、小学校において各競技種目を扱った割合が9.4%、健康増進等の効果を扱った割合はわずか2.3%であった。

つまり、これまでのオリパラ教育は「一般教養としてのオリパラの知識」を与えることや「選手を題材とした道徳教育」ばかりが目的となり、「オリパラ大会への動機づけ」は全く行われてこなかったといっても過言ではないだろう。世界中のほとんどの人々にとってオリンピック・パラリンピックは「観て楽しむもの」である。そうであれば、子供にも「観てみたい!」と思わせるようなアプローチをすることが最も重要ではなかろうか。ところが、そこへのアプローチがほとんど行われていないのが現状である。

別の調査によれば、オリパラ教育実施校のうち8割以上が講師を招聘しての実施であり、実施困難な理由として多かったのが「講師招聘の日程調整ができない」「内容の工夫・開発が困難」などであった。これは、現場の教員が何をしてよいかわからないことや、そもそも教員自身があまりオリパラ大会に関心がないことを示唆している。数か月後に迫る冬季オリンピック北京2022大会に向けて何をすべきか、私自身の実践を以下に記す。

平昌2018大会での実践

当時、私は小学校で6年担任をしていた。2月に開幕する冬季オリンピックに向けて、3学期のはじめから少しずつオリンピックの競技紹介をしていった。主な内容としては、
 ・競技名とその種目
 ・何を競うスポーツか
 ・どんな点がおもしろいスポーツか(戦略・身体能力の高さ・ルールなど)
 ・日本代表選手(世界ランクやおもな大会成績)
などである。これらの内容を1枚のプリントにまとめて掲示したり、ネットニュースを見せながら話したりして知名度の低い冬のスポーツをまずは知るところから始めた。

大会が始まると、それらの情報を振り返りながら、毎日下校間際に「今日のテレビ中継予定」を伝えた。日本のゴールデンタイムの中継が多かったため、何の競技に、誰が出場して、何時から、何chで、中継されるのかを毎日伝えてから下校させた。そのうち子供の方から「今日はスケートですよね!朝新聞で見てきました!」と言うようにもなり、子供が次第にオリンピック中継に関心が高まっていることが感じられた。

そしてフィギュアスケートの日は、男子SPを教室のテレビでライブ観戦した(およそ13:00~15:00)。昼休みから5時間目にかけて、クラス全員で日本代表の演技を応援した。6種類あるジャンプの跳び方や得点の違い、技能点と演技構成点の合計で順位が決まることなどを教えたため、6年生の子供にもだんだん競技の仕組みがわかってきたようだった。いよいよ羽生選手が登場したときには、全員が固唾をのんで見守り、ジャンプが一本決まるたびに大きな拍手が沸き起こった。そして、見事SPでトップに立つと、教室は大歓声に包まれた。

この日は金曜日だったため、2日後に控えるフリーの放送予定を伝えて下校させた。翌週月曜に聞いてみると、羽生選手のフリー演技(金メダル獲得)をリアルタイムで観戦した割合はクラスの51%であり、学校で観戦を体験したことが子供の視聴率を高めたと想像できた。

東京2020大会での実践

この夏に開催された東京大会でも、担任する4年生の子供たちに毎日その日に行われる競技の紹介をした。夏休み中だったため、クラスのオンラインプラットフォームに、①今日の注目競技②その競技の見どころ③注目の日本代表選手④中継時間⑤中継チャンネルを毎朝2競技ずつ投稿した(前日に作成し、予約投稿した)。また、選手村でのボランティア談も時々投稿したり、印象に残った競技をチャットでやりとりしたりと、オリパラを満喫する温度感を少しでも共有しようと試みた。

結果は夏休み明けにわかったが、クラスの半数以上の子供が毎朝の私の投稿を楽しみにしていたという。今大会で初めて観戦したスポーツもたくさんあったと話しており、オリパラを満喫する担任の存在が子供のオリパラへの関与を高めたのではないかと考えられる。

大会の観戦意欲を高める

先に述べたように、オリパラ教育の目標の一つに「生涯スポーツへの主体的な参画」があるが、実際にはそこへのアプローチがほとんど行われていなかったことが明らかになっている。わたしたちにとってオリンピック・パラリンピックは「するもの」ではなく「観るもの」であるため、「オリパラへの参画=試合観戦の満喫」といえる。

これまで行われてきたような一般教養としてのオリパラ理解や道徳的価値も十分大切だが、大会を観戦したい(日本代表を応援したい)という気持ちにさせるような大会プロモーションとしての役割がオリパラ教育には大いにあるということを、より多くの教員に理解してもらいたい。自国開催で高まった日本代表サポーターとしての「熱」を次の北京大会につなげるために、学校で再びオリパラ教育が充実することを願っている。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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