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給与明細のこと 〜 父とわたし

大正生まれの父親が定年退職をしたのは私が高校を卒業する時だった。当時の定年退職は55歳。今から考えると、あまりに早すぎるように思う。父は若い頃から長崎県の炭鉱で働いていたのだが、閉山に伴い職を求めて神戸にやって来た。神戸では港湾労働者として定年まで勤めた。

田舎の貧乏な家庭で生まれ、青春時代は戦争と重なり、地元の炭鉱で働き、石炭が時代遅れとなっては、故郷を離れて港の仕事に転職する。時代も時代だ。周りを見回しても恐らくそれが当たり前の世界であっただろうと思う。

そんな父親が定年まで大事にしていた物の中に給与明細がある。その様子を見ていて、給与明細はきちんと取っておくものだと考えていた。何かの場合に備えて取っておかなければマズイ事になるものだと漠然と思っていた。

この3月、ついに私も定年退職となった。亡き父に倣い、初任給からこの3月までの38年分の給与明細がおいてある。この間、明細がないからといって何か困ることはなかったし、今後もないだろう。父が何を思って給与明細を大事に持っていたのかは今となってはわからない。

ただ、この給与明細を見ていると、自分が父と同じく不器用ながらも仕事を全うした証のように思えてくる。「お前も頑張ったな」と父に言ってもらえるような気がするのだ。



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