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お酒の誘惑

350mlの缶チューハイが、見えないように冷蔵庫の奥へ追いやられている。
冷蔵庫の中をスッキリさせたい気持ちと、お酒を控えようとしている自分の姿が、客観的に見てとれる。

以前、実家に帰省したときに母から貰ったものだ。
冷蔵庫の奥へと追いやった缶チューハイを見るたびに、貰わなければよかった後悔する。
初めから断ればいい話だが「いらないなら貰うよ」が、ぼくの口癖だ。
「え…いらないの? 」
「好きだから、買っておいたのに」
そのように言われてしまうと、その優しさを踏みにじったような気がして断れない。

酒が飲めないわけではない。
アルコールの力を借りて、仕事の疲れをとろうとする自分が嫌いなのだ。
逆効果なことは理解している。
それでも、わずかに疲れが解消できるかもしれないと、そんなバカバカしい可能性に手を伸ばしてしまう。
常に何かを口に入れていないと寂しいのか、手軽に口に運べるものに対して我慢ができない。
そのため、酒やお菓子などのお手軽な誘惑は、自ら買わないようにしてるのだが、現在、その誘惑品が冷蔵庫内の二段ある内、1段目の半分を占めている。
一人暮らし用の冷蔵庫。
見えないように奥へと追いやっているとはいえ、扉を開ければ、すぐに取り出せる位置にある。
「今日はやめて、休日に飲もう」と自分に言い聞かせながら、プルタブに人差し指をかけている。
この自分に対する小さな甘さの積み重ねが、自分の価値を徐々に下げているはずだ。
「そういう日があってもいいと思うよ」
そんなふうに言われても、そういう日があったことを許せない自分がいるのだ。

自分に対して甘いのか厳しいのか、自分のことながら理解できない矛盾と向き合っている。









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