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ねぇ、雪積もってきたよ

「ねぇ、雪積もってきたよ」

耳元で囁く声がして目を醒ました。

ベッドから出てベランダのカーテンを開けると、窓には雪景色が映っている。

しまったなぁ。

ここのところの雪予報は外れ気味だったので油断していた。

すぐに着替えて、いつもより数段上の防寒をして家を出た。

足元の雪は厚みがあって、いつも踏んでいる地面にまで靴底が届いていないような気がする。

この辺りでここまでの積雪は久しぶりだ。

雪が積もった街は、雪に音を吸われていつもより静かな上に、雪に色を奪われてすっかり世界が単調になっていた。

着くべき場所に着く。

路面よりもさらに雪が積もっている。

その場所はすっかり雪に隠れてしまっていた。

油断したことを詫びながら、手袋をした手で雪を払った。

「すっきりしたよ。寒いのにごめんね」

囁く声が耳に入る。

「いいんだ。気付くのが遅くてすまなかった」

「ううん、来てくれてよかった」

微笑みを返しながら、雪を払ったその場所に傘を立てかける。

「じゃあ、また」

雪を運ぶ冷たい風の合間に、ふと暖かい気配を感じた。

さて、身体が冷え切ってしまった。
帰って熱いコーヒーを淹れよう。

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