見出し画像

秋の深まりと温かい紅茶。

肌に触れる風が涼やかになり、日差しが不快なものではなくなってしばらく経つ。
秋の中でも、残暑が厳しいわけでもない、かといって風が特別冷たいわけでもないこの季節。

暑さがようやく和らいで、寒さに向かうまでのこの10月中旬から11月にかけての時期がわたしはとても好きだ。

乾いた爽やかな風。
すっきりと高い空。
金木犀の儚く甘い香り。
栗やかぼちゃといった秋の収穫物。
わたしの好きなくすみカラーが主体となる服装たち。

わたしが秋という季節を愛する要素はたくさんある。もう一つ、そこに足すべきものがあったことに、最近気付いた。

ーそれは、温かい紅茶である。

先日仕事帰にふらりとカフェに足を運んだ。少し夜も遅い時間であったので、珈琲やカフェオレではなく、温かい紅茶を注文する。

眠気には珈琲という方程式が刷り込まれているせいだろうか。紅茶にもカフェインが含まれているのは百も承知だが、紅茶は珈琲に比べ夜遅めでも罪悪感なく飲めてしまう。

ポットで運ばれてきたアールグレイをなみなみとティーカップに注ぎ入れる。

ほわりと満ちる華やかな香りと、美しい深い赤褐色。
鼻にぬけてゆく香りと、ほのかなまるい甘みと渋みの余韻。
喉からゆっくりと降りてゆく温かさに、思いのほか身体が冷えていたことに気づかされる。

温かい紅茶なんてこれまで幾度も口にしてきたはずなのに、紅茶そのもの美しさと味わい深さになんだかはっとして、それから惚れ惚れした。

淹れたての紅茶って、こんなに芳しい香りだったっけ。そしてこんなに美味しかったっけ。

そうか、わたしここのところ、お店でも家でもカフェオレか、珈琲あるいは冷たいミルクティーばかり口にしていたから、温かいストレートティーは久しぶりに口にしたのかもしれない。

久しぶりの温かい紅茶との再会は、より一層その魅力を引き立てた。
例えて言うならば、久しぶりに会った友人が、なんだか大人びてより美しく見えるような。

からりと清涼な音を立てて溶ける氷がたっぷり入った、アイスティーやカフェオレで喉を潤す幸せも捨てがたい。
けれど、やっぱり少し冷えた身体をじんわりほぐしてゆく、温かい飲み物を味わう幸せにはかなわない気がする。

そもそも紅茶の深い赤褐色は、まさしく秋のイメージそのものという感じもする。

気候が穏やかになり収穫物が実る、豊潤な秋。
葉が枯れ落ちてゆく前の、有終の美としての彩りの秋。

紅茶の深い赤褐色は、そんな円熟した秋になんだかしっとりと寄り添う。

頬を撫でる風が、軽やかになったら、秋。
高い空に漂う薄い雲を見上げたくなったら、秋。
金木犀の香りを胸いっぱい取り込む深い深呼吸をしたら、秋。
秋の実りのスイーツを目で追いかけてしまうようになったら、秋。
お気に入りの茶色のブラウスを身にまといたくなったら、秋。

ーそして、温かい紅茶が恋しくなったら、秋。
わたしだけの歳時記にまた一つ、書き足された。

#エッセイ #秋 #紅茶 #食欲の秋



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?