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"副"

「お父さんの同級生が立候補しているみたいだから、選挙行って投票しておいで」と母に言われた。もちろん選挙には行くつもりだったが、候補者に思い入れがある人がいなかったので、「おっけい」と言って家を出た。投票所に行くまでの道で、ふと思い出した。僕も票を争ったことがあったよなと。

中学2年生の頃、僕はクラスの学級委員長に立候補した。理由は副委員長に当時、好きな女の子が立候補したからだったと思う。そんな不純な理由から挑んだ選挙は僅差で見事、当選。晴れて学級委員長になった。それまで、自他ともに人前に出るようなタイプとして認知されていた僕に少しの権力と責任が備わった瞬間だった。

それから僕は学期や学年が変わっても委員長や副委員長を歴任した。それでも僕は学年で目立つタイプではなかった。学級委員長が集まる「学年委員会」というものが月1回程度あった。そこに集まる各クラスの圧倒的なリーダーを見ると、僕はここまでのリーダーになれないなぁと、どこか限界を感じた。リーダーの正解を見せらたような気がした。それと同時に違和感を感じた。クラスや学年を引っ張る「権力」や、学校の顔となる「名声」ではなく、当時は何かを求めいて、その違和感を当時は言葉にできなかった。


時は戻り、昨日である。アメリカ副大統領が国の権力を操る映画を観た。権力は肩書きから生まれるという事実をひっくり返したバイス(映画ではチャーリー副大統領のことを指します)は圧巻だった。チャーリーは副大統領という権力を使って、大統領の権力をも操り、利用したのだ。

僕はバイスがかっこいいと感じた。トップではなく、その少し下で支え、時には前に出る。そんな事を考えると、あの時、学年委員会で感じた気持ちは、渋さへの羨望だったのだと気づいた。具体的には縁の下で支える渋さである。あの時の僕はリーダーになりたいんじゃなくて、リーダーを支えたかったのだ。

人には、がしがしリーダーシップをとって周りを巻き込むタイプや、出しゃばりたいという気持ちは一切ありませんというマイペースタイプがある。でも、1番多いのは両タイプの間で、普段はあまり出しゃばらず、でもたまに前に出たいんだよなと密かな野望を持っているタイプだ。ほとんどの人が当てはまるんじゃないか。 密かで小さな野望を持って。

長々、書いたが、今こんな事を書けるのは中学2年生の時に委員長にいきなり立候補した自身のちっぽけな勇気と、引いては好きになった女の子のおかげである。

いやー、楽しかった。あの頃。

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