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地歴うんちく判例説明・民法2=公序良俗違反(2)

地歴うんちく判例説明・民法2=公序良俗違反(2)
最判平成15年4月18日(判例百選Ⅰ-13)
【キーワード】
証券取引業における損失保証、損失補てんをめぐる立法改正と、その公序良俗の形成が問題になった事案
【地歴うんちく】
 (時代背景)
 時は、特金ブームで沸いた1985年(昭和60年)。特金とは、特定金銭信託の略称。信託銀行などが顧客の資金を預かって株式や債券で運用するサービスのひとつで、委託者が運用方法や銘柄までも指定(特定)する仕組みの信託のこと。当時は、運用の結果、損失が出た場合、その損失をカバーすることを契約されることが多く、これを損失保証と言われた。
 (経過)
1、社債発行で資金を獲得しようとしていた独立系の大手商社・H社(原告・控訴人・被上告人)は、1985年(昭和60年)年6月、証券会社・MI社(被告・被控訴人・上告人)投資顧問として,N信託銀行に300億円を信託して運用する旨の契約をし,
2、MI社は,信託期間の満了時(1990年、昭和65年3月)に,その間の運用益を加えた額から投資顧問料と信託報酬を控除した金額が30億円とそれに対する年8%の利回りの合計額に満たない場合は、その差額分をH社に支払うことを約束した(第1次保証契約)。
3、その後,1993年(昭和68年)3月まで契約が延長され,保証利回りも年8.5%に変更された(第2次保証契約)。
4、その後,MI社が保証契約を履行しないため,H社は,主位的に,本件保証、契約と追加保証契約の履行を請求し,予備的に,損失保証を約束して投資を勧誘することは不法行為に当たるとして損害賠償を請求した。
(1審判決)
 旧大蔵省が損失補てんを厳に慎むよう通達を出した1989年(昭和64年)12月に損失保証が社会的妥当性を欠く行為であるという公序が形成され,第1次、第2次保証契約は第1次保証契約契約時に遡って無効になったとして,H社の請求を棄却した。
(2審判決)
 第2次は公序に反し無効であるが,第1次保証契約は公序良俗に反し無効であるとはいえず,現時点でその履行を求めることも証券取引法に反し許されないわけではないとして,H社の請求を一部認容した
(最高裁判決)
1、「法律行為が公序に反することを目的とするものであるとして無効になるかどうかは,法律行為がされた時点の公序に照らして判断すべきである」。
2、第1次保証契約が締結された「当時において,既に,損失保証等が証券取引秩序において許容されない反社会性の強い行為であるとの社会的認識が存在していたものとみることは困難であ」り,本バブル崩壊時期における証券会社の大規模な損失保証・損失補填が平成3年6月の各証券会社に対する税務調査を契機として明らかとなり、暴力団との不適切な取引、相場操縦の疑惑などとともにいわゆる「証券不祥事」として社会問題となった。そこで、同年の証券取引法改正において緊急措置的に損失補填を罰則をもって禁止し、その温床となった一任勘定取引も禁止した件保証契約は「公序に反し無効であると解することはできない」
3、しかし、H社の「主位的請求は,本件保証契約の履行を求めるものであり」,改正後の旧証券取引法によって禁止されている「財産上の利益提供を求めているものであることがその主張自体から明らかであり,法律上この請求が許容される余地はないといわなければならない」
(法律改正の経過)
1、証券会社などによる損失保証、損失補てんは従来から、不適切とされてきたが、旧証券取引法では行政罰しか規定されていなかった。
2、しかし、バブル崩壊時期に暴力団との不適切な取引、相場操縦の疑惑などとともにいわゆる「証券不祥事」として社会問題となった。1991年(平成3年)、同法改正において損失補てんを罰則をもって禁止された。その温床になった一任勘定取引も禁止された。
3、証券取引法はその後も改正され、2007年(平成19年)9月に関連法規に統合され金融商品取引法と改名されている。
【文献種別】 判決/最高裁判所第二小法廷(上告審)
【裁判年月日】 平成15年 4月18日
【事件番号】 平成11年(受)第1519号
【事件名】 約定金、寄託金返還請求事件
【審級関係】 第一審 28052762
東京地方裁判所 平成6年(ワ)第19802号
平成10年 7月13日 判決
控訴審 28050660
東京高等裁判所 平成10年(ネ)第3601号
平成11年 9月29日 判決
差戻控訴審 28090663
東京高等裁判所 平成15年(ネ)第2089号
平成16年 1月22日 判決
〔最高裁判所民事判例集〕
1.法律行為が公序に反することを目的とするものであるかどうかを判断する基準時
2.証券取引法42条の2第1項3号が平成3年法律第96号による同法の改正前に締結された損失保証や特別の利益の提供を内容とする契約に基づく履行の請求をも禁止していることと憲法29条
【要旨】 〔最高裁判所民事判例集〕
1.法律行為が公序に反することを目的とするものであるとして無効になるかどうかは、法律行為がされた時点の公序に照らして判断すべきである。
2.証券取引法42条の2第1項3号が、平成3年法律第96号による同法の改正前に締結された損失保証や特別の利益の提供を内容とする契約に基づいてその履行を請求する場合を含め、顧客等に対する損失補てんや利益追加のための財産上の利益の提供を禁止していることは、憲法29条に違反しない。

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