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平成29年司法試験・民法・設問2関連基礎知識

平成29年司法試験・民法・設問2関連基礎知識
【賃借権の無断譲渡と無断転貸】
★条文=612条
1項=賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ、その賃貸借を譲り渡し、又は賃貸物を転貸することができない。
2項=賃借人が前項の規定に違反して第三者に賃借物の使用又は収益をさせたときは、賃貸人は、契約の解除ができる。
語呂→賃貸借の転貸は、賃貸人の承諾の明示(612)が必要
★土地の賃貸借契約において、借地上に建てた自己所有の建物を、土地の賃貸人に無断で、その建物を第三者に賃貸し、使用・収益させた場合
【判例】大判昭和8年12月11日
→使用・収益させたのはあくまでも、自己所有の建物であって、土地の無断転貸にあたらない。
【信頼関係の法理】
★賃貸借と言えば、この信頼関係の法理を思い出せ。
重要=信頼関係破壊の理論(法理)とは,賃貸借契約のような当事者間の高度な信頼関係を基礎とする継続的契約においては,当事者間の信頼関係を破壊したといえる程度の債務不履行がなければ,その契約を解除することはできない,という法理論。これ暗記するしかない。
★信頼関係を破壊すると認めるに足りない事情の主張・立証責任
判例=最判昭和41年1月27日
【事案の概要】 東京都板橋区の宅地事件。本件土地の賃貸人である被上告人が、賃借人であり本件土地上に本件建物を所有する上告人に対し、主位的に借地権の無断譲渡を、予備的に無断転貸を理由として賃貸借契約を解除したとして、本件建物の収去と本件土地の明渡しを求めたところ、第一審・原審のいずれも無断転貸を理由とする解除を認め、被上告人の請求を認容したことから、上告人が上告した事案で、賃借人の無断転貸を賃貸人に対する背信行為と認めるに足りない特段の事情の存在については賃借人が主張・立証すべきであり、裁判所がこの点について釈明権を行使しなかったとしても違法ではないとした事例。
【要旨】 〔最高裁判所民事判例集〕
賃借地の無断転貸を賃貸人に対する背信行為と認めるに足りないとする特段の事情は、その存在を賃借人において主張・立証すべきである。
【借地上の建物の売却の場合】
1、問題点→借地上の建物を譲渡したいと思い、地主に譲渡を認めてもらうようお願いに行きましたが、承諾してくれない。この場合、どうするのか。
2、解答→建物譲渡を地主が承諾しない場合、裁判所に対して、地主の承諾に代わる許可の裁判を申し立てることができる。
 他人の土地上に建物を所有するには、土地の賃貸借などの利用権原が必要。権原がなければ、建物収去義務が発生する。借地上の建物が譲渡されるときは、建物の譲受人にも土地の利用権原が必要となる。
 ところが、法律上賃貸人に無断で賃借権を譲渡することはできません(民法612条1項)。賃貸借契約でも、賃貸人の承諾なくして賃借権を譲渡できない旨定められているのが普通。賃借権の無断譲渡は、賃貸借契約の解除事由ともなる(同条2項)。譲受人が、建物とともに土地の賃借権を譲り受けて、土地利用権を確保するためには、土地賃借人の承諾が必要となる。
 一般に、借地人が借地上に建物を建てて資本を投下したけれども、後に建物を第三者に譲渡して資本を回収したいと考えることは極めて自然です。特段にこれを禁止する理由もありませんし、建物を守るという社会経済的な観点からみても借地上の建物譲渡は認められるべきです。けれども一方で、賃借権譲渡には地主の許可が必要という原則を貫くならば、借地上の建物を自由に譲渡できないという不都合が生ずる。
3、借地借家法19条
(土地の賃借権の譲渡又は転貸の許可)
第十九条
第1項=借地権者が賃借権の目的である土地の上の建物を第三者に譲渡しようとする場合において、その第三者が賃借権を取得し、又は転借をしても借地権設定者に不利となるおそれがないにもかかわらず、借地権設定者がその賃借権の譲渡又は転貸を承諾しないときは、裁判所は、借地権者の申立てにより、借地権設定者の承諾に代わる許可を与えることができる。この場合において、当事者間の利益の衡平を図るため必要があるときは、賃借権の譲渡若しくは転貸を条件とする借地条件の変更を命じ、又はその許可を財産上の給付に係らしめることができる。
第2項=裁判所は、前項の裁判をするには、賃借権の残存期間、借地に関する従前の経過、賃借権の譲渡又は転貸を必要とする事情その他一切の事情を考慮しなければならない。
第3項=第一項の申立てがあった場合において、裁判所が定める期間内に借地権設定者が自ら建物の譲渡及び賃借権の譲渡又は転貸を受ける旨の申立てをしたときは、裁判所は、同項の規定にかかわらず、相当の対価及び転貸の条件を定めて、これを命ずることができる。この裁判においては、当事者双方に対し、その義務を同時に履行すべきことを命ずることができる。
第4項=前項の申立ては、第一項の申立てが取り下げられたとき、又は不適法として却下されたときは、その効力を失う。
第5項=第三項の裁判があった後は、第一項又は第三項の申立ては、当事者の合意がある場合でなければ取り下げることができない。
第6項=裁判所は、特に必要がないと認める場合を除き、第一項又は第三項の裁判をする前に鑑定委員会の意見を聴かなければならない。
第7項=前各項の規定は、転借地権が設定されている場合における転借地権者と借地権設定者との間について準用する。ただし、借地権設定者が第三項の申立てをするには、借地権者の承諾を得なければならない。
→そこで借地借家法は、借地権者が借地上の建物を第三者に譲渡しようとする場合に、第三者(譲受人)が賃借権を取得しても地主に不利となるおそれがないにもかかわらず、地主が賃借権譲渡を承諾しないときには、裁判所は、借地権者の申立てにより、地主の承諾に代わる許可を与えることができると定めている(借地借家法19条1項前段)。裁判所が、賃貸人に代わって許可をすれば、土地賃借権を譲渡できる。賃借権の残存期間、借地に関する従前の経過、賃借権の譲渡又は転貸を必要とする事情その他一切の事情を考慮して許可の可否が決定される(同条2項)。
→ところで地主が裁判外で賃借権譲渡を認める際には、借地人から地主に対し、承諾料(名義書換料)が支払われる慣行がある。
 地主自らが許可をするのではなく、裁判所が地主の承諾に代わる許可の裁判をするにあたっても、裁判外の慣行を考慮するのが衡平である。そのため賃貸人の承諾に代わる許可の裁判にあたっては、賃借人からの一定の金銭支払を条件とすることができることとされている(同条1項後段)。多くの場合に、裁判所は、許可に承諾料(名義書換料)支払の条件をつけている。
 承諾料(名義書換料)の算出については、特定の計算方法が確立しているわけでもなく、地域差もあります。しかし多くの場合には、まず借地権価格(更地価格に借地権割合を乗じた額)を算定してその1割を基準にして、これに個別的なプラスマイナスの事情を勘案して承諾料(名義書換料)が決められている場合が多い。例えば借地権の残存期間が長ければ、額が大きくなる事情として考慮され、従前に多額の権利金を払っていたのであれば、額が小さくなる事情として考慮されるものと考えられる。また都市部では借地権価格に対する承諾料(名義書換料)の割合は比較的高く、郊外では比較的低い。
 第三者(譲受人)が賃借権を取得すると地主に不利益となるような場合には、裁判所は許可をしないが、裁判所が許可するようなケースであっても、地主としては、第三者(譲受人)が賃借人となるよりは、自らが建物と借地権を買い取って、土地の賃貸借関係を消滅させた方がよいと考えることもある。借地借家法は、このような地主の希望に配慮し、地主自らが建物と賃借権の譲渡を受ける旨申し立てた場合には、相当の対価を定めて、地主に対して建物と賃借権を譲渡することを命じることができることにしている(同条3項)。地主が自らに建物と賃借権を譲渡するよう裁判所に申立てをすることができる権利を介入権といっています。地主から譲渡の申立てがあったときには、原則として裁判所は譲渡を命ずる裁判をしなければならないという裁判例がある(東京高裁:昭和52年6月9日決定)。
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