令和3年司法試験・民法・設問2・解答に挑戦

令和3年司法試験・民法・設問2・解答に挑戦
第2 設問2
【時系列】
6、AはEに対し、Aの従業員専用の出張講座の開設を依頼。講座の期間は令和3年6月から10月までの5カ月間で、週4日。Aはα月額報酬60万円、β乙検定の合格者数に応じた成功報酬を支払うことを合意(契約①)
7、Eは計約①の本件講座に専念するため、新たな講座の依頼を受けないこととし、代替の講師を手配し、これらをAに伝えた。
8、30名が講座を受講。
9、受講を止めたいという受講者も。AはEに対し、同年8月末で本件講座をやめることも考える、と伝える。
10、Aは8月31日、Eに対し、契約①を解除した。
11、Eは9月、10月に、代替講師の報酬として合計40万円を支出。また、Eは10月に、別の企業で講座を行い、報酬15万円を得た。
12、本件講座の閉鎖後、受講生30人全員が、他者の講座を受講。その6割の18名が合格
13、AはEに対し、8月以降の月額報酬を支払っていない。
14、EはAに対し、8月分の月額報酬60万円の支払を求めた(請求3)。また、9月、10月に関する損害賠償金120万円(事実11で支出した40万円を含む)を求め(請求4)、さらに乙検定の合格者数に応じた成功報酬の支払も求めた。
【設問2】
(1)契約①の債務内容と性質を、理由を示して明らかにしろ。
(2)契約①の性質を踏まえて、請求3、4についての可否を、Aの反論を考慮しつつ論じろ。
【解答に挑戦】
1、小問(1)
(1)AはEに対し、乙検定合格に向けて従業員専用の講座を開催を依頼していることから、有償の委任(643条以下)と言える。なぜなら、Aは講座の開設を有償で委託し、Eがこれを承諾しているからである。ただ、本件講座は乙検定に関する内容を従業員に教授する事実行為であることから、有償の準委任(648条1項、656条)と言える。その内容は、ⅰ本件講座を開くことと、ⅱ受講者に乙検定に合格させることである。ⅰは、令和3年6月から10月までの5カ月間で講座を開設することで、月額報酬60万円とされていることから、期間によって報酬が定められている(648条2項)。ⅱは、従業員の合格に向けて努力が求められる手段債務で、報酬は成功した後に支払われることになる(648条の2)。
2、小問(2)・請求3について
(1)EはAに対し、令和3年8月分の月額報酬の支払を求めている。この請求は認められるか。
(2)648条3項2号によれば、有償の委任が中途で終了したとき、受任者は、既にした履行の割合に応じて報酬を請求できると規定する。
(3)AはEに対し、令和3年6月から10月までの5カ月間、月額報酬60万円で出張講座の開設を委任いている。しかし、同年8月末でAの解除によって出張講座は終了した。これは、Eが受任している本件講座は同年8月末で「中途で終了したとき」(648条3項2号)にあたり、同年8月末までの講座は「既に履行に応じた」分に相当し、未払いの8月分についてEはAに請求でき、請求3は認められる。
3、小問(3)・請求4について
(1)Eは同年9月、10月に関する損害賠償金120万円(事実11で支出した40万円を含む)を求めている。この請求は認められるか。
(2)651条2項は、やむを得ない事由があったときを除き、相手方に不利な時期に委任を解除したとき(1号)や委任者が受任者の利益(専ら報酬を得ることによるものを除く)をも目的とする委任を解除したとき(2号)、委任者は相手方の損害賠償をしなければならない、と規定する。
(3)Aは令和3年8月31日、Eに対する委任を解除した。この解除は「やむを得ない事由」があったことによるものか。確かにEの講座は従業員らには負担が大きいため、受講をやめる従業員もいた。この事由をもってAは委任を解除した。しかし、これをEが熱心に講座に取り組んだためであり、「やむを得ない事由」にはあたらない。また、Eは他の講座の依頼を受けることを止めている上、交代の講師も用意し、その代金計40万円も支出している。したがって、AはEにとって「不利な時期」に解除したといえ、Eに損害を賠償する義務を負う。したがって、請求4は認められる。
(4)もっとも、Eは10月に、別の企業で講座を行い、報酬15万円を得ている。このため、Aは損益相殺を主張できるとも思える。
ア、損益相殺は、債務不履行や不法行為で損害を受けた者が損害賠償を受けることができるが、その債務不履行や不法行為によって、損害賠償を受ける者が利益を得た場合、損害賠償をする者と受ける者の公平の観点から、損害賠償額
から利益を差し引く制度である。
イ、債務不履行や不法行為と同一の原因によって被害者等が損害と同質性を有する利益を内容とする債権を取得した場合に限り、これを加害者の賠償すべき損害額から控除すべきであると考える。
ウ、Eは10月に、別の企業で講座を行い、報酬15万円を得たことは、Aによる委任の解除と同一の原因で債権を得たといえるか。Aによる解除によって、
Aの従業員専用の本件講座は終了している。その後、Eがどのような講座を行うかはEの自由であり、Aの委任解除によって、同一の原因で債権を取得しているとはいえない。したがって、損益相殺は行われない。
(5)以上から、請求4は認められる。
以上

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