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今週の読書 「ランスへの帰郷」

 少し時間はかかったが、「ランスへの帰郷」を読み終えた。

 この本は、よかった。図書館で借りていたけれど、購入すると思う。

 テレビの100分で名著で「ディスタンクシオン」を観て、社会学に興味を持ち、岸先生の本を読んだりしていた。この本は、自分の人生を社会学的洞察で振り返ったものだ。「ディスタンクシオン」に興味があるけれど、いきなりそこに手を出すのはハードル高い、という人には、ぴったりな本だと思う。(まさに私がそうだ)
 階級社会、階級の固定化、学歴、同性愛に対する差別、地方と都市、右傾化、それらが、筆者の自伝の中で描かれている。その描き方が、自伝でありながら、過度に感傷的なわけでもなく、生まれ育ってきた環境を冷静に洞察している。
 戦後の20世紀のフランスの話だが、それが決して過去の話ではなく、今もまだ脈々と受け継がれており、今の日本にも置き換えられるところもかなり多く、考えさせられる。

 個人的にとても嬉しかったところが、筆者が克明に自分の影響の受けた本や哲学者、作家の名前をあげて、本のタイトルも出してくれているところだ。これらを辿ると、筆者がたどってきた知の歴史の一端を知れるようで、感激した。道標のような。

 子供の頃のことを思い出す。たまに連れられて行ったクラッシックのコンサート、美術館、博物館、本。両親はある種階級を超えるための文化的教育をしてくれていたのかもしれないと、思うと感慨深い。感謝せずにはいられない。そんなに身についておらず、申し訳ない思いでいっぱいだ。
 それでも文化に関心を持って鑑賞する、楽しめる、本を読む、という行為を多少は身につけることはできたと思う。それが当たり前のものではない、とは正直最近まで知らなかった。(もちろんブルジョワジーとかではなく、むしろ結構そこから離れている。)

 マジョリティは無自覚、というのを端々で思い知ることができる。無自覚であることで、なぜ傷つけるのか、かなり克明に描いている。自分はマジョリティではない、としても、どうしてこういうことが起こるのかが、よく分かる。

 みずらか選んだと思ったものが、システムによって選ばされており、それによって階級の固定化が続いていくという具体例を、筆者の家族の歴史から、まざまざと見せられるのも生々しく、とてもリアルに感じられる。
 筆者の階級を超えた経験からの自己の分断、家族との分断も興味深い。違う方を選んだからといって、子供の頃の自己が消えず残り続け、それによる葛藤や複雑な心情などもよく分かる。

 この1冊でいろんなものを感じることができ、興味が尽きない。無知な自分が読んで感じたことなので、今後、知識が増えたり、学んだ後に読んでみるとまた感じることが違うのかもしれない。
 ここに出てきた本はいくつか読もうと思う。1冊の本から色々な世界が広がるという感覚を感じやすい本だと思う。

 

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