声優 藤原啓治さんを偲んで

藤原啓治さん、クールな声色で二枚目から悪役までこなす名役者さんだ。クレヨンしんちゃんの野原ひろしでお馴染みで、他にも様々なキャラクターを演じている。

僕は演技なんて微塵も勉強したことがないが、この方は特に素晴らしいお芝居をするといつも思っていた。何しろ、声がとても好き。声色を駆使した芝居、滲み出る演技というべき芝居、違和感が全くない芝居、あぁ素晴らしい。あ、この役を演じてるのはしんちゃんのひろしだったんだ!と何度驚いたことか。

そう感じていたある時、映画アイアンマンを観た。藤原さんはロバートダウニーjrという俳優さんの吹き替えを担当した。そう、全世界で絶大な人気を持つキャラクター、トニースターク役を吹き替えたのだ。
この映画を観た時、僕は奇跡だと思った。人類が奇跡的に発見したモノ。何でこうなったのか、理屈では説明できないような偶然。まさに化学反応。それくらい、こんなにハマる役があるかと驚き慄いたのだ。


ロバートダウニーjrが演るコミカルな演技を、藤原さんは巧みに日本語に吹き替えた。藤原さんが声を当てることで、ロバートダウニーjrの魅力そのものが翻訳されている。これは声優のキャスティングをした方がすごいのか、藤原さんがすごいのか。この映画から後に公開されるロバートの映画は、ほとんど藤原啓治さんが吹き替えている。

もっとびっくりしたのは映画シャーロックホームズ。ロバートは、天才でプレイボーイで傲慢でお金持ちのヒーローから、頭が狂ったような天才で不潔っぽくて泥臭く捻くれ者のシャーロックホームズになった。
ロバートダウニーjrという俳優さんは演技派で知られていて、アイアンマンもオーディションの演技に魅了されて起用が決まったというほどだ。それだけ評価もクオリティも高い演技をするロバートの変貌っぷりにも、藤原さんは見事に対応した。もう藤原さんがロバートだ。彼こそがロバートダウニーjrなのだ。


これほど僕は藤原啓治さんに惚れていた。声フェチの僕が決める声優男性部門1位の方だった。

だから、病気療養で休業に入った時はもどかしく思った。早くひろしに戻って欲しい、アイアンマン役に復帰できるのか、、、
復帰後の初仕事に、映画スパイダーマンホームカミングでトニースターク(アイアンマン)役を演じると発表があった時は、ホッと胸を撫で下ろしたもんだ。体調をみて徐々に仕事を再開すると出ていたから、ひろし役にもそのうち復帰するだろうと思っていた。

復帰後、藤原さんをナレーションやキャラクターでお見かけする中で、ちょっとだけ声色が変わっているのが気になった。でも声優さんも人間だし、ちょっとの声の変化は他の声優さんでも感じることが多い。そんなに気にすることじゃないんだろうと思った。


昨年春、アベンジャーズエンドゲームが公開され、アイアンマンはシリーズを引退。そして、ロバートダウニーjrがアイアンマン役で忙しく製作が先延ばしになっていた映画シャーロックホームズ3が公開されることが決まった。
よし、僕の好きなシャーロックホームズがまた観られる、公開まで何年かあるけどずっと楽しみにしていた。次にロバート主演する映画ドクタードリトルが終了後、撮影・公開される予定だった。

だがそれは叶わなかった。4月16日、藤原啓治さんが亡くなったことが知らされた。ロバートダウニーjrの最後の吹き替えは、映画ドクタードリトル。あと少し、叶わなかった。

もっとこの方の演技を観たかった。もっとこの方の声を聴いていたかった。クレヨンしんちゃんを観て、アイアンマンが好きで、シャーロックホームズのファンだった僕のショックは相当なものだった。悲しくて仕方がない。

藤原さんへのインタビューによると、何としてもアイアンマンを吹き替えることを目標に、病気療養復帰後は仕事をなさっていたらしい。今考えるとこれはそういう意味だったのかな、声がちょっと変わったかなと思ったけどかなり無理して頑張っていらしたんじゃないかな。

病気を抱えた患者さんは、目標を持つことで精神的に強くなり病気と戦う。藤原さんもそうだったのだろうか。アイアンマンを吹き替え終えて亡くなってしまうというのはそういうことなのだろうか。そう考えると無性に泣けてくる。


僕なんかただの声フェチ、ただのファンだけど、応援してた方が頑張って生きた形を、僕は勝手に見習わせていただこうと思う。ありがとう野原ひろし。ありがとうアイアンマン。ありがとう藤原啓治さん。

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