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『ミッドナイトスワン』の中のバレエ

“ミッドナイトスワン” 
夜の間だけ白鳥になる呪縛が解ける白鳥の湖の原作と、夜にしか自由に舞う“理想の白鳥”になれなかった凪沙と一果の対比をすごく的確に表したタイトルで、観賞後にタイトルの重みがすごく増した。

バレエって多分数ある習い事の中でもトップレベルで母親の協力無くしては続けられない習い事なんじゃないかなって個人的に思ってる。途中先生が言った通り金銭的なことは勿論(一概には言えないけど私がコンクール出た時は多分かかった諸費用合計したら1回で30万くらい)、生活管理したり、衣装のサイズ合わせたり、髪の毛のセットしたり、先生達に挨拶をしたり、もしかしたら本人より母親の方が大変なのではないかと思うくらい、母親が二人三脚の習い事。だからこそ『母になりたい』と願う凪沙のストーリーを描く上で、バレエが土台となったのは、自分的にはすごく合点がいった。なんか中途半端にバレエ扱う作品だと、何故バレエを扱おうと思ったのか謎なドラマとか多いけど、ミッドナイトスワンにおいてはあれはバレエ以外の習い事考えられなかったと思う。サッカーでもピアノでも習字でもだめ、バレエじゃなきゃあのストーリーは始まらなかった。母と娘の関係性が1番よく分かるのがバレエという習い事だと個人的に思う。

そして一果のバレエ素晴らしすぎる。あのレベルで中学生なのは末恐ろしすぎる。そしてこの作品の白鳥のバリエーションになんて雰囲気が馴染む子なんだと惚れ惚れしてしまった。落ち着いた雰囲気にどこか悲しみ纏ってて、でも芯があるあの女優さんの雰囲気が白鳥のオデットのバリエーションにピッタリでほんとに羨ましい。

そして1番は『オデットのバリエーション絶対踊りたくねえ』っていうのを再確認してしまった( 笑 )オデットのバリエーションを度々踊るシーンが印象的だったけど、あんなバリエーションをましてや中学生にやらせるなんて監督もしや相当なドS?とまで思ってる。オデットのバリエーションって大変さがかなり伝わりづらい。所謂バレエ!って感じのジャンプとかすごい回転がある訳でも無いし、なんか派手さにかける。にも関わらず最初の方とか体力だけじゃなくて精神もすり減るくらい体力使う。つまりテクニックとかでごまかしが一切効かないで本当にバレエのレベルがよくわかるバリエーション。あんな淡々とした曲私レベルの下手くそが踊ったら観客全員見てられなくて全員寝る。だからコンクールとかでは絶対選ばれない曲だし、ましてや自分が指導者だったら絶対中学生には無理だと思っちゃいそう。そんなバリエーションを最後の海外のコンクール(ローザンヌ?だったのかな?)のシーンなんかフルで流したけど周りの観客の人全員釘付けになって観ていた。中学生で完璧なオデットって踊れるんだってなんか拍子抜けしてしまった。私もあれくらい上手く踊れたらなー!!(大の字)

そしてあの地味な(何度でも言う)オデットのバリエーションをただ踊らせるだけでなく、オデットのバリエーションを通して一果の成長や心情の変化を表現させたのが、ほんとにすごいと感じた。とにかく大技がそんなに出てこない分つまらなく踊ろうと思えばどこまでもつまらなくなるような踊り。最初の方の一果が正にそれで、振りこそ出来てるし綺麗だけど、心には残りづらい。そつなくこなす感じ。感情表現が苦手な一果を如実に表した踊り方だったと思う。それに対してラストシーンの踊りは、登場の表情から空気変わってたし、心の底からオデットになりきっていたから、見る人を引き込む力があった。色々な経験を経て感情表現ができるようになったこと、凪沙に魅せたいという思いや伝えたい想いが溢れていることがあの短いバリエーションに詰まっていた。一果の変化が最初の踊りとの違いで端的に伝わった。本当にプロのバレリーナみたいでした。

あと個人的にコンクール予選の曲がアレルキナーダだったのもすごく良かった。オデットと真逆みたいな性格のバリエーション。バレエの先生が『本当にオデットでいくの?』的な戸惑いを投げかけたことを表現してる選曲なのかなって思った。アレルキはそれこそ最初からグルグル回ってテクニック重視の派手な踊りで正にコンクール向きなバリエーション。だけど白鳥の湖みたいな古典と違って、キャラクターものだし特にアレルキはお茶目な表現みたいなのが重視される可愛らしい年相応の作品で、そこを上手く自分のものに出来てない感じが、一果の少し異質な性格をよく表してるなあと感じた。

あとこれは個人的に気になったことなんだけど、作品中にオデットのバリエーション以外に所謂3大バレエの曲が全然出てこなかったの何でなんだろう。中学生のコンクールなんか眠りの3幕のバリエーション続きすぎて寝てしまうようなイメージだったのに、一果の1個前の子の選曲エトワールで『エトワール?!』ってなったし、最後の卒業式後のレッスンの曲なんかライモンダで、ちょっと驚いた。だからこそ、ここでオデットのバリエーションっていうバレエの中の王道の王道の曲が際立ったのかな。

あとショーパブ?の曲が4羽の白鳥だったのも良い!オデットがやっぱり主役だからオーラもあって、どっしりと存在感のある落ち着いたイメージなのに対して、4羽の白鳥って結構身体も華奢でまだ若手みたいなバレリーナが配役される“雛鳥”っぽいイメージがあって、凪沙のなりたい自分になれない追いつかない感じが、オデットになれない4羽って感じで合ってた気がする。あとあのちょこまか動く振り付けも凪沙が必死にもがいてる心情にすごくあってて良かった!

そしてなによりあの4羽、ほぼ元の振り付けのまま草彅くん達踊っていたことに驚いてしまった!ショーパブって設定だったらもっと簡略化してても良かっただろうに、ほぼ見た感じバレエの振り付けを再現しててすごいと思った。あれ4人で合わせなきゃいけないし、手繋いでるしから1人ズレると事故るし、すぐぶつかるから結構大変だから、何回も練習したんじゃないかな。

あと忘れちゃいけないりんちゃんの存在だよね〜。いい子なのが辛かった。りんちゃんの親多分世間的に毒親なんだろうけど、あそこまではいかなくてもバレエやらせてる親にああいうタイプ割と多いと思う。上でも言ったけどバレエって本当に親と二人三脚の習い事だから親が相当バレエ好きなことがほとんど。習わせ始めのきっかけなんてほとんどが親がやらせたいだけなんじゃないかとも思う。だから子供の気持ちとか関係なくバレエを押し付けちゃう。そしてバレエって本気でやると人生全部かけなくちゃいけないから、バレエ以外の全てが犠牲になる。そんなバレエ以外の全てを親の願望に従ったせいで捨てさせられたのにも関わらず、今度は怪我でバレエも失うことになる。地獄。りんちゃんママが『バレエとったら何も無くなる』(雰囲気)って被害者ズラして泣いてたけど、内心、『いや、そういう風に仕向けたのお前やん』と思わずには居られなかった。わかんないけど、りんちゃん別にバレエ大好きって訳ではなかったんじゃないかと思うんだよね。ただそれしか無かったから続けてきた。そんな唯一のものも失ったせいでどうしようもない虚無に襲われた。

そして屋上でのアレルキのシーン。りんちゃんがアレルキ選曲だったのは、一果との対比かな。育った環境とか真逆な二人の関係性がこの選曲に表れていたと思う。そしてこのアレルキナーダは底抜けに明るい話で、この曲もすごくハッピーな踊り。その曲を意気揚々と踊った幸せ絶頂なクライマックスでの自殺。地獄。最期くらい幸せな自分で死にたかったのかな。所謂バレエやってる子のステレオタイプみたいなりんちゃんが、一果の傍に居て、一見一果がりんちゃんに憧れると思いきや、実際は逆だったということはすごく考えさせられた。そんな憧れとか色んな想いがキスシーンには込められていたのかなと個人的には解釈。(りんちゃんがキスを迫った理由は詳しくは理解出来てない。)

バレエを扱う映画とかドラマって、キャストの知名度にばっかこだわってバレエあんまり上手じゃなくて観てて冷めてしまうこと多いけど、この作品はバレエ映画と言っても良いほどバレエのレベルが高くて感動した。このレベルを保証できたキャスト陣が、ほんとに素晴らしかった。一果役の服部樹咲ちゃん、バレリーナとしても女優としても今後が楽しみですね!

そして忘れちゃいけないのが草彅くんの凄さ。間違いなく凪紗は実在してる。あの世界を生きていると感じさせられた演技力、圧巻。そしてやっぱさすがジャニーズだと思った。4羽の白鳥もやってのけたし、あの一果にオデットを教えてもらうシーンもだけど、バレエって素人やるとマジで大惨事になるイメージなんだけど、草彅くんのバレエはちゃんとバレエだったし普通に女性的で綺麗だった。年齢とかバレエ経験無いこととか男なこととか色々ひっくるめて、本当に凄いと思う。演技だけで大変な作品だっただろうに、踊りもちゃんと練習したんだと思います。完全にこの作品で草彅くんの見方が変わりました。さすが世界のSMAP。

とにかく言いたいことが自分の中で多すぎて消化しきれない作品でした。多分一生引きずる。価値観を揺るがすような作品ってミッドナイトスワンのような作品を言う気がする。今度小説読みます。




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