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「芸術的創造は脳のどこから産まれるか?」(著:大黒達也)を読む

最近の音楽を聞いていると、「何か、ボカロっぽい」そんな感覚を受けることがあります。
そんな芸術的な感性は、一体どのようにしてうまれるのか、ずっと疑問でしたが、本書を読んで、全部理解したとはいいませんが、その一端を垣間見た気がします。


まず本書は科学的で非常に読みやすいです。(この感想はすごく属人的な気もします)
「芸術」を「科学的」に語っているので、私のような"科学脳"の持ち主にも非常にわかりやすいのです。
まず言葉の定義をしてくださるところから、嬉しい。
例えば、皆で共有できるような規則性を見つける行為を「収束的な芸術(≒知能)」、そして規則性から脱しようとする行為を「拡散的な芸術(≒創造性)」として定義して頂けるので、言葉がブレずに入ってきて読みやすい。

本書では脳をテーマにしているので、やはり、というわけでもないのですが、以前から「うつ病」でも話題にあがり馴染みのある『扁桃体』『前頭前野』『海馬』などもキーワードとして出てきます。そして、音楽の創造性にとって重要な部位として『線条体』もあげられます。
精神疾患の勉強ばかりしていると、なかなかnegativeな取り上げ方しかしませんが、こうやってpositiveな点に目を向けることも重要ですね。

面白かったのは創造性に関わる3つのネットワークです。
それぞれデフォルト・モード・ネットワーク、エグゼクティブ・コントロール・ネットワーク、サライアンス・ネットワークですが、普通は1つずつ働くはずのこれら3つのネットワークを、創造的な人は同時に働かせることができるというのです。こういったのもやはりトレーニングなのでしょう。

しかしこの本を読むべきなのは、ここから先がものすごく面白いからです。
まず私達が大量の情報をどのように脳で処理しているかを説明されます。そして、それが芸術にどのように寄与しているのかも説明してしまうのです。
これを一言で言うには非常に難しいので実際本を読んで頂きたいのですが、情報をバラバラに保管して必要な時につなぎあわせるのではなく、確率分布を用いて、エントロピーの低い確かな情報を1つの塊として認識(chunk)させているのだそうです。このchunkによって、最初は続けて行うことが難しかったことも、一連の流れとして簡単にできるようになる、というわけです。(未だに謎が多い睡眠も、このchunkに役立っている可能性があるとも…!)
頭の中にAmosがあるんだといえばわかりやすいでしょうか。
私達が学習しているのは実は確率の学習なのだということで、なるほどそれで「○○っぽい音楽」というのが認識できるようになるわけです。
そして創造性というのは、その学習した確率からの脱却でもある、ということで、まるで『型を覚えて型を破る』一連の流れをみているようです。


「芸術って科学的に何なの?」という私に似た"科学脳"の持ち主の方には特にオススメです。

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