【第7章】奈落の底、掃溜の山 (10/23)【瓦礫】
【猟犬】←
「集落ちかくの空気は、まだ汚染が弱いだら。これが、ガレキの山のいただきに近づくほど濃くなっていく」
つぎはぎだらけの防護服に身を包んだ発掘者<スカベンジャー>、ワッカは、手にしたシャベルで前方を指し示す。
現在地点は、地面がガレキにおおわれてこそいるが、まだ平地といえる程度だ。眼前には、見あげんばかりの廃棄物の山がそびえ立つ。
山裾のところどころから噴き出す紫色の炎が不気味に輝き、峰の真上では分厚い灰色の雲が渦を巻いている。渦の中心から、ときおり、なにかが落下してくる。
「空気の汚染が濃くなれば、防護服でも防ぎきれねえだら。具合が悪くなりそうだったら、すぐに言ってくれよ。勇者サマ?」
「ああ」
発掘者<スカベンジャー>、ワッカの気遣いに、かたわらの男──アサイラはうなずきを返す。
アサイラもまた、ワッカ同様につぎはぎだらけの防護服を装着している。
発掘に出かけるワッカへの同行を申し出たところ、集落の小人たちが、予備の防護服と補修用の素材を組み合わせて、アサイラの体格にあわせて仕立ててくれた。
「しかし、自分が死にかけていた場所にまた行きたいだなんて、勇者サマも物好きだら。央心地ちかくなんて、発掘者<スカベンジャー>でもめったにいかない」
「……この次元世界<パラダイム>から脱出する方法を、見つけたい。ワッカ、なにか心当たりはないか?」
「この、世界……?」
アサイラの問いかけに、ワッカは顔を上げ、ひびの入ったゴーグルを向ける。
「すると、あれか? 勇者サマは、ここではない別の世界からやってきた……?」
「まあ、そういうことになるか」
ワッカは前方を向き直り、背中にかついだピッケルの具合を確かめる。
「ここではない、ちがう世界……そんなこと、考えたこともなかっただら」
小さな発掘者<スカベンジャー>は、思慮深げにつぶやく。二人は、ガレキの山麓にさしかかりつつあった。
小人たちが用意してくれた防護服は、見た目はぼろ同然で、動きにくく、少し臭うが、地獄のような外気の影響をしっかりと遮断してくれている。
「でも、べつの世界に行ったとしても……おいらたちは、生きていけないだろうな」
「どうしてだ?」
「ちがう世界に、ガレキの山はあるか? おいらたちは、この山からモノを与えられなきゃ、じぶんたちでは、なにも作り出せないだら」
「違うんじゃないか?」
アサイラの言葉を受けて、先導するように前を歩いていたワッカが背後を振り返る。
「おまえたちは、俺の防護服を作ってくれた。別の世界に行ったら行ったで、そこにあるものを使って、なにかを新しいものを作り出せるんじゃないか」
ワッカは、アサイラをじっと見つめる。曇ったゴーグル越しには、小人の発掘者<スカベンジャー>の表情はうかがえない。
「そうか、そうだら……そうだと、いいな!」
小人は、再び前を向いて、ガレキの斜面を登りはじめる。ワッカのかすれ声は、心なしか軽やかだった。
「さて、勇者サマ。ぼちぼち、央心地に近づくだら。汚染はきつくなるけど、収穫物も多くなるだら!」
「待て、ワッカ……あれは、なんだ?」
アサイラは、手をかざして目を凝らす。ガレキの山頂直上、雲の渦の中心から、なにか小さな影が落下するのが見える。
影が、空中で白い布を広げるのが見える。とたんに、落下速度が遅くなる。
「……パラシュート?」
「どんがらだった、初めて見る落下物だら! 行くぞ、勇者サマ!!」
ワッカは、アサイラのつぶやきを耳に留めず、落下点に向かって喜びいさんで走り出す。アサイラも、急いであとを追った。
→【要撃】
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