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パリのデパ地下を査定する【後編】 ボン・マルシェ

パリのデパ地下を査定する。
【前編】では右岸のギャラリー・ラファイエットを取りあげた。

今日は左岸のボン・マルシェへ。
世界最古の百貨店として知られている。
サン・ジェルマン・デ・プレやリュクサンブール公園から徒歩圏内とはいえ、観光のついでに行くにはやや不便な場所にある。

しかし、わざわざ行く価値のあるデパートだと思う。

地下はワインショップ。
ギャラリー・ラファイエットの2階に比べるとかなり物足りないけれど、それなりの充実ぶりだ。

特にシャンパンの力の入れようは圧巻。

眺めているだけで酔いがシュワシュワと回ってきそう。

ギャラリー・ラファイエットの1階は最先端のスイーツをよりどりみどり取り揃えていたが、こちらのスイーツコーナーは1店舗のみで寂しい。

ただし惣菜はボン・マルシェの圧勝。
中華やイタリアンに加えて、パテやキッシュ、鶏の丸焼き、ローストビーフなど、あらゆる惣菜が売られている。
クリスマスや大晦日など、レストランの料金が法外に跳ね上がる夜には、ここで買った惣菜を部屋で温めればそれなりの食事になる。
そういうことが大事だ。
それこそが「中食」なのだし。
デパートはこうでなくちゃ。

ボン・マルシェの食料品の揃えでユニークなのは、外国の食材の豊富さ。

ここをみれば、フランスという国が他の国の料理をどう見ているのかが少しみえてくる。

まず、驚かされるのはイタリア料理の食材の豊富さ。

イタリアの食材だけで2列くらいの棚がある。
パスタやオリーブオイル、トマト缶などの定番商品から、ちょっとしたスイーツまでありとあらゆるものが揃えてある。

ちなみに、イタリアの食材を集めたEatalyが2019年にマレ地区にオープンしたようだ。(銀座や丸の内にも支店がある。)
https://eataly.fr/

イタリアの食文化に対するフランス人のリスペクトが見える。
レストランでパンにバターではなくオリーブオイルが添えられることも多く、カロリーが高いとされるフランチに代わって、ヘルシーなイタリア料理に対する関心が高まっているのがわかる。

イタリア食材の充実ぶりと対照的なのが、スペイン料理に対する関心や評価の異常な低さ。
スペイン食材の棚はない。

世界のグルメシーンを席巻している北欧料理の食材も置いていなかった。

スペインと北欧という、食の最先端を行く料理に対する冷淡さが印象的だった。

ベルギー、ドイツ、スイスなど隣国の料理は完全無視のようだ。

意外に多いのはアメリカ。

そしてイギリス。

これらの国の食文化に対するリスペクトというよりも、イギリス人やアメリカ人がよく買い物に来るという事情もありそうだ。
要は「上客」なのだろう。

レバノン、モロッコ、ギリシアなどの棚がある。

このあたりはフランスらしい。

目立ったのは日本料理の食材に対する関心の高さと、中国料理に対する関心の低さ。

日本料理は1つの棚を占めている。

他方、中国は他のアジア諸国とひとまとめ。

中国の食文化の多様さと奥深さを考えると、これは少し不当な扱いだと思った。
イタリア料理に対するヘルシーなイメージと対比して、中国料理にはヘビーなイメージがあるのかもしれない。

なお、プラス・ディタリーなどの中華街に行けば、中国料理の食材はいくらでも手に入る。

さて、まとめよう。
イタリアの優遇とスペインの冷遇。
日本の優遇と中国の冷遇。
イギリスやアメリカなどの「お客様」の優遇と、ドイツやスイスなどの「隣国の友人」に対する無視。
これが左岸のポッシュなデパートの現時点の「答え」のようだ。

世界各地の産品を都市に集めて一望のもとに展示し販売する。
19世紀の博覧会に端を発する「世界をまなざす欲望」は、その後、百貨店やテーマパークに受け継がれ、やがては世界旅行として結実する(吉見俊哉『博覧会の政治学』)。

世界最古の百貨店ボン・マルシェではいまでもその欲望装置が厳然と機能し、人びとの世界観をなんらかの意味で規定している。






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