見出し画像

⑤落ちこぼれバンドやるってよ

初ライブを無事に終えた調子ノリに留まるところはなく「デモCD必要だよなー」という俺の意見でレコーディングをすることとなった。

しかしここでユウジが「レコーディングスタジオでやる自信がない」と言い出した。


俺はケンスケと説得を試みたけど、俺もあんまり上手くできる自信がない。レコーディングってどうやるの?


すると「じゃあ、俺の先輩に聞いてみるよ」とケンスケがどこかに電話をかけた。


「タケ君、お疲れさまです。あの、俺たちレコーディングしたいんですけど、まだレコーディングスタジオは早いかなぁって思ってて。タケ君、やってくれません?」


タケ君はお母さんの美容室のお客さんだった人らしい。



タケ君は二つ返事とはいかなかったけど、快諾してくれた。


俺たちはレコーディングに向けて練習に励んだ。夏休みをフルに活用したスケジュールだった。金は無いけど、時間だけはある。




夏休みが明けた1週間後の日曜日、MTRを持ってタケ君は現れた。


タケ君は出会早々「俺、趣味でレコーディング機材集めただけだよ?」と不安な事を言った。


それでも俺たちはやるしかないと、地元のスタジオに向かった。そのスタジオは俺たちが「たまにはちゃんとしたスタジオでやった方がいい」というケンスケ発案のもと、2、3回使ったことがあるスタジオだ。


マイクを大量に借りて、レコーディングはスタート。俺は音作りなんてわからなかったから、そこは全てお任せ。バッキングは簡単に終わったけど、ソロが全然うまく弾けず、かろうじて上手く弾けたものを採用した。


ユウジは緊張はないものの変なこだわりを見せて何回もやり直してた。俺にはさっぱり違いがわからなかった。


ケンスケは慣れた感じでパパッとほぼワンテイクで終わらせた。

ケンスケが「お前ら時間かかり過ぎ。こういうのはちゃんと練習して本番に挑むんだよ!」とど正論を言ったけど、タケ君が「留年したやつが何言ってんだよ」と笑ってた。そーだ、そーだと騒いだけど、どう考えてもケンスケが正しい。


ボーカルは別の日の放課後にいつものカラオケ部屋で録音した。「DVDジイさんに声を入れてもらおう」と思ったけど、その日ジイさんはいなかった。残念。


レコーディング後、みんなでご飯に行った。ここで俺たちはお礼にご馳走しようとしたけど、タケ君が「後輩に出してもらうわけにはいかないよ」と奢ってくれた。タケ君、最後までかっこいい人だった。ミックスして完成したCDを後日取りに行く約束をして解散。


俺は自分達の曲がCDになるのが楽しみで仕方なかった。



忘れてたわけじゃないが、その週末は文化祭だった。



一応準備には参加しとこうと、俺はクラスの出し物であった、展示会作品の飾り付けみたいなのをやった。

ゴミ拾いアートだった気がする。恐竜みたいなのを作った記憶がある。ただ、ゴミを拾った記憶はないんだよなぁ。


そこで作業をしているとクラスメートの女の子から「バンドやってるの?」と聞かれた。


俺は何で知ってるんだろ?と思ったけど、ユウジといっつもバンドの話してたから、聞こえてたのかな?と思って「うん、そうだよ」とだけ答えた。


へー、とだけ言ってその子は飾り付けの準備に戻った。

なにが言いたかったんだ?俺は疑問に思ったけど、作業に戻った。なんといってもあと一週間後には文化祭だからな。


文化祭当日、有志だか授業でだか作ったかどうかは知らないけど、彼女の絵も文化祭で張り出されていた。

ユウジと2人で見て驚いた。某国民的人気ゲーム、いや、世界的に人気ゲームの黄色いキャラクターを著作権ギリギリにして、人間とテレビゲームのようなもので遊んでる絵だった。


「狙った感がなぁ」とだけ偉そうに言って俺たちはケンスケのところに向かった。



CLの3人で、視聴覚室にバンドを見に行く予定だったのだ。二年生のバンド、つまりタメのやつらがどれだけのレベルかを知りたかった。


俺たちより上手かったら嫌だなと俺は思いながら視聴覚室の扉をあけた。


そこでは5人組のバンドが演奏を始めるところだった。会場は大いに盛り上がってる。


アジカン、エルレガーデンの俺たちも知ってる曲を何曲かやって彼等はステージを終えた。キャーキャー言われてる姿を見ても俺はもう何も思わなかったけど、すごい盛り上がりだし演奏も上手い。

こりゃ俺たちが落ちるはずだわ。


意気消沈して、悔しいよりも、これとは違う路線で勝負しなきゃ!と俺は思った。


ケンスケは「ベースは大した事ねぇな」と言い、ユウジは「ドラムは俺より上手いけど、ギターなら俺の方がかっこいいよ」と張り合ってた。ほら、この2人格闘家だから。



続いて特に予定のなかった俺たちは三年のバンドも見ていくことにした。


出てきた途端ユウジが「あ、あの人」と俺に耳打ちしてきた。ユウジが前に言ってた「ドラム叩ける同級生」がそのバンドにいた。


2ビートを軽々と叩き始めた。ハイスタのコピーだった。ドラマーだけが2年生であとは3年生のバンドなんだと思う。


俺とユウジは顔を見合わせて「うまいね」とだけ言った。明らかにその同級生だけ華があった。


文化祭は滞りなく終わった。

ゴミ拾いアートは誰かにいたずらされて、何人かの女子が泣いてた。


打ち上げがあるというので、俺は参加した。ユウジは「ドラム叩きたくて仕方ないから帰る!」とだけ言い残し颯爽と消えてった。


俺は何人かのクラスメートと打ち上げ会場のファミレスへ。


そこで、例の女の子がまた話しかけてきた。


彼女はユキナという子で、身長150cmぐらい。見た目はギャルみたいな化粧濃いめの派手な感じだ。でも、決してギャルではない。なんていうメイクだろ。優しいギャルメイクみたいな。


俺は「絵、意味わかんなかったよ」と言ったら「見てくれたの?うれしー」とはしゃいでた。



(多分、この子は女子から嫌われてる)

そんな予感がした。


この予感はあたり、彼女はこの文化祭以降、露骨にハブられてた。

そりゃ小さくて男ウケしそうな派手なメイク、男にも普通に話しかける、嫌われそうだ。


つづく

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?