④落ちこぼれ、バンドやるってよ

俺たちは落ち込みながらいつもの練習場所に向かった。

俺は「あいつら見る目ねーな!とくに青フレームのやつ!」と悪態つきながら、ユウジに習ったばかりのハイキックを出した。


全然足があがってなくて、2人が爆笑してた。つられて一緒に笑いながら一通り文化祭実行委員の悪口を言いあった。


落選した理由は3つ。青フレームの山岸さんは一切悪くない。


まず大きな理由は「三年生優先」というものだった。これは仕方ない。三年生にとってはラストチャンスだから。


2つ目は、ライブは体育館のステージではなく総合学習ルームという視聴覚室みたいなところでやるんだけど、当時の三年生が仕切っていて、そこと仲良い人が優先されるシステムだったらしい。結果その年は2年バンドは1組だけだった。

なんだ、それ。今思い出しても腹立つわ。



3つ目は直接言われたわけじゃないけど、演奏レベルの低さだろう。


練習量は確かに多かった。でも、それはここ2ヶ月の話。ユウジのドラムは明らかに下手だったし、俺のギターもお粗末なものであった。



嫌な空気を悟ったのかケンスケが「文化祭じゃなくて、ライブハウス出ればよくね?」と言い出した。



ライブハウス。


いつかはやりたいと思ってたし、目指してた場所はそこだ。落ちたならもうやっちまおう!


俺にはイケる!という自信があった。

俺たちにはオリジナル曲があったからだ。

天才だと本気で思ってた。



俺たちはネットでライブハウスを探し、早速一軒の目ぼしいライブハウスに電話。「君たち高校生?今なら高校生割にしとくよ。とりあえず近いうちに顔出せる?」とかなんとか言われて、後日伺うとあっさりと1ヶ月後にライブが決まった。しかも、さらに2ヶ月後のブッキングも組んでもらえた。ライブハウスは怖い場所でもなんでもないな。


「バンド名??まだ考えてません。当日までに決めればいいですか?」

「いやいや、ホームページに載せたいから早めに連絡してよ」と言われた時は


え?ホームページ?これって、バンドとして認められたんじゃね?て思った。もちろんそんな事はなく、ただ当たり前の話なんだけどね。


ライブハウスから帰る途中、俺たちは公園のベンチでバンド名どうするか?という会議を開催。


これまで、なんとなく考えたこともあったけど、誰も口に出さなかった。なんとなく恥ずかしくない?こういうのって。


そんな中ケンスケが「LARGEって単語を入れたい」と言い出した。

ケンスケはあまりこういう時に発言しない。コピー曲を決める時も「お前らがやりたいのでいいよ。ただ、ライブやるんだからある程度弾きこなせるやつね」って言うような、お兄さんみたいなポジション。事実、年齢も一個上だし。


俺とユウジは珍しくケンスケが発言したことが嬉しくなり「いいねー、そうしよう」と即決。

ケンスケはちょっとだけ照れ臭そうに笑った。


ユウジ「LARGEの前何にしようか?それかLARGEの後になんかいれる?」

しばらく、色々アイディアを出し合ったがイマイチピンとくるものがない。そうすると話は脱線してくる。


俺「あのカラオケ教室に来てスピーカーの位置がどうのこうの絡んでくる陽気なおじいちゃんいるじゃん?あの人の名前入れようぜ」


ユウジ「いや、名前知らないし!」とくだらないことを言って笑った。


俺「あのおじいちゃん、このスピーカーでCD聴けるよってめっちゃ押してたよね?」


ケンスケ「あー、早く帰れよて思ったよな」


俺「DVDのことディーブイデーって言うよな。なんで2回目間違えんねん。そこはわかるだろ!」


ゲラゲラ笑ってその日は解散した。


次のスタジオ。もうスタジオと書いてるけど、実際はカラオケ部屋ね。に行くと、例のDVDじいさんがいた。


俺たちを見つけるなり「おー!今日もやってるね!」と若い感じ出して、話しかけてきた。年寄りがこっちに寄せてくる感じに苦笑いした。


俺たちはふざけて「バンド名考えてるんですけど、なんか良いアイディア無いっすか?」と聞くと


「カウリングはどうだ!?」と元気よく答えてきた。


「カウリング、、、カウリング??なんすか、それ?」


じいさん「風を避けるために、バイクとかにカウルつけるだろ?」


ケンスケ「それは知ってます」


じいさん「俺は昔、飛行機のそういうの作ってたんだよ、あの頃は景気よくてね、それでさ、、

うんぬんかんぬん」


俺たちは「CAWLING LARGE」ってよくね?なんかメロコアバンドみたいだけど、逆風とかから身を守る、みたいな。


俺たちは口々に「いいね!」「字面も悪くないよな」「カウリングラージ!」と絶賛していた。


DVDジジイはまだなんか言ってた。


はよ、出てって。


俺たちは早速、ライブハウスに電話してバンド名を伝え、後日ホームページをワクワクしながら見たら「カーリングラージ」と書かれてた。


氷の上でブラシをゴシゴシするバンドが爆誕した。モグモグタイムをライブ中にすることも決めた。嘘です。


記録的な猛暑の中をCLの3人はなんとか持ち堪え、8月22日俺たちは初ライブを迎える。


その日は他に出演するのは4バンド。俺たち以外は歌物のコピーバンドだった。ミスチルとか、バンプとか。

夏休みもあってか客入りは上々。ケンスケの友達は俺の一個上、ケンスケの後輩は俺とタメというよくわからない先輩後輩感に俺はとまどった。しかも、話をきいても何の繋がりがよくわからないし。一つ言えるのは全体的にガラが悪い。


トップバッターの俺たちは緊張しながらステージに飛び出した。SEはAC/DC。


セットリストは


東京少年(ゴイステ)

バスケットケース(グリーンデイ)

少年の詩(ブルーハーツ)

明日明後日(オリジナル)

song for the art(オリジナル)


オリジナル二曲を、共演した人たちに褒められて「いやー、まぁこれからっすよ」とか調子に乗った発言を楽屋でかました。




ライブ後、マネージャーから「次のライブは高校生のオリジナルバンドだけ集めたイベントだから気合い入れろよ」と言われたけど、当時の俺たちは「偉そうにしやがって。余裕っしょ!」とおめでたい思考であった。


どのくらいおめでたいかと言うと、CAWLINGではなく、COWLINGが正しいスペルだと気づかなかったぐらい、おめでたかった。

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