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おバイク一人旅~福島・いわき→下郷村→南会津町(往路)2020.10.3

私が暮らしている福島県は、とにかく広い。
地図を見ると、特に東西に広く、お隣の新潟県に申し訳ないほど、でんと幅をきかせている。
バイク乗りとしては、とても走りがいのある県だが、最も西端の、いわゆる奥会津と呼ばれる地域(栃木県日光市との県境)は、日帰りではかなり急ぎ足になるため、なかなか行く機会がなかった。
1度のんびり走りたくて、2020年5月上旬にプチ旅の予定を立てたのだが、コロナ禍の非常事態宣言により、キャンセルとなっていた。
やっと行けることになったのは、その年の秋のことだ。会津高原と呼ばれる、国道がくるりと回っているところを走ることにした。

出発の朝は曇り。
快晴にはならないが、雨も降らないとの天気予報に、安心してバイクを走らせることができた。
私の地元・いわき市から奥会津までは、R49でお隣の平田村まで行き、あぶくま高原道路という自動車専用道路を通れば早いが、それではわくわく感が足りないので、平田村から白河市まで、のんびりと県道を通っていくことにした。
県内ということで、事前に地図は見たものの、ルートは特に決めなかった。標識を見ながら、向かう先の地名を目指していけば、おそらく行けるだろう。
障害レベルと呼ばれた方向音痴の私も、旅を重ねて、少しは逞しくなったらしい。

県道がおもしろいのは、出発点と到達点を結んだ「○○線」という名前がついていることだ。道沿いに表示されている名前を見ると、道路と地名、地図が重なって、ひらめきのような楽しさが湧いてくる。
この日は矢吹小野線、飯野三春石川県を気持ち良く走り、R118を経由して、棚倉町からR289で白河市に入った。ここから甲子高原をかすめ、4,345mある甲子トンネルを抜けて、下郷町から奥会津を目指す。
白河から下郷までは、高原の風景が美しい快走路だ。実は8月の猛暑日に、日帰りでここに走りに来て、高原特有の涼しさを堪能したことがある。
しかし、この日は肌寒く、道の駅しもごうに寄って、温かいお蕎麦でほっと一息ついた。手前味噌ながら、福島県には美味しいものがたくさんあり、会津地方のお蕎麦もそのひとつなのだ。

下郷からR121を通って、南会津町田島へ入ると、いよいよ奥会津だ。まずは、友人に教えてもらったライダーズカフェ「J's」で休憩してから、道の駅たじまを目指して南下した。
奥会津の中で、このR121は重複区間が続く。下郷から田島まではR289、田島からはR400と重なり、更に道の駅周辺では、R121・400・352と3本重複になるのだ。表示も縦に3つ並んでいて、おもしろい。
道の駅たじまで、集めている道の駅切符を購入し、3本重複区間を戻って、奥会津の南側を周るR352に入った。

R352は、派手な絶景や観光名所があるわけではないが、走っていてとにかく快適だった。
通り過ぎていく自然な風景に、どうしようもなく心が和む。紅葉には早かったが、走るほどに心が穏やかになる、不思議な雰囲気。
信号もほとんどなく、時々現れるスノーシェッド(道路を雪や雪崩から守るトンネル状の覆い)が、豪雪地帯だということを思い出させる。しかし、まだ冬を迎えていない南会津町は、私をやさしく走らせてくれた。

奥会津の1番奥は、檜枝岐村(ひのえまたむら)。
新潟・群馬・栃木と、3つの県境に接しているというだけで、秘境感が大いに漂っている。しかし、日の入りが早い秋のこと、ゆっくり回ることはできず、道の駅尾瀬桧枝岐にだけ寄り道をした。
是非、日が長い夏至の頃に訪ねて、温泉や名物の裁ちそばを堪能しつつ、檜枝岐をのんびり回ってみたいと思う。

この日の宿は、奥会津ではなく、下郷町の「湯野上温泉」に予約していたので、檜枝岐村から南会津町へ戻ると、道の駅きらら289(にーぱーきゅー)からR289を通り、一旦奥会津を後にした。
できれば明るいうちに、宿に着きたかったのだが、R121へ戻る頃には、暗くなってしまった。
そして、R121から湯野上温泉へ入る道がわからず、ここかと曲がったのは、超鋭角の細い道。おまけに、道の向こうにはどうやら段差があり、大回りになったら落ちてしまいそうな気配だ。
さらに悪いことに、道路もフラットではなく、左側に傾いている。
これは降りて押すべきか、でも降りるにも不安定だし、などと考えていたら。
ふっとバランスを崩した、次の瞬間。
あろうことか、その場に転倒してしまったのだ。
いわゆる立ちゴケ、そしてビビりゴケというやつだ。よりによって、こんな傾斜のある、真っ暗なところでやっちまった!
慌ててバイクを起こそうとしたが、傾斜に対して、タイヤが上になってしまったため、前輪が動いて上手く起こせない。おまけに、左のウインカーのレンズ(オレンジのカバー)が吹っ飛び、足元に転がっていた。
こりゃ、何とかブレーキレバーを固定して、前輪を止めなきゃ、と考えていた時。
「どうしました?」
という、神の声が!
一人の男性が、バイクが倒れる音を聞いて、来てくれたのだ。しかも、目と鼻の先にある、自動車整備工場の方だとおっしゃる。不幸中の幸いで、私が転倒したのは、そういう場所だった。
2人がかりではバイクもすぐに起き、来てくれた方は、壊れたウインカーと、曲がってしまったチェンジペダル(ギアを変えるための左足のペダル)の応急処置までして下さった。ビニールテープを少し使っただけだからと、費用も受け取らずに。
地獄に仏というのが、どんなにありがたいことなのか、身をもってよくわかった。
何度もお礼を言って、すぐそばの宿に向かったが、ありがたさと情けなさが重なり、あふれてきた涙がヘルメットの内側を濡らしていた。

ごはんの評判の良さで選んだ、お宿の夕飯は、美味しいだけでなく、見た目もとても美しかった。
さすがに落ち込んでいた私だが、目と舌に美味しいお食事には心が踊り、元気が湧いてきた。
単純な精神構造で良かったと、今でも思う。
下郷の夜は既に寒く、夕食後と眠る直前、2度温泉で身体を温めてから、布団に入った。
朝になったら、相棒の傷を確認しなきゃ。ごめんね、またやっちゃって・・・そんなことを思いながらも、眠りに落ちるのは、あっという間のことだった。

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