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【短編推理小説】五十部警部の事件簿
事件その15
五十部警部は翁倶楽部の集まりで、くつろいだ様子だった。
「常識的な観察さえすれば、傍証の無いアリバイの偽装は極めて困難だよ。いい例を挙げよう。徳地事件だ。」
五十部警部は珈琲を一口啜って続けた。
「戸丸銀座の通りで僕は偶々徳地正太郎という男に出くわした。その前日、彼の友人二人が殺害されていて、他の署が彼を探していることを知っていた僕は彼にその事を告げ、簡単に事情を尋ねたんだ。
その日の午後四時から六時の間どこにいたのかとね。
彼はその日の午後二時にはヨットで港を出て、沖合へ向かっていたといった。ところが、岸から15キロも離れた沖合で風がまったく凪いでしまった。途方に暮れていたが、ふと国際救難信号をマストに掲げることを思いつき、そうしたそうだ。吐く息ほどの風の無いような凪いだ海上で待つこと4時間、ある漁船がその信号を見たか、やって来てくれてね。その漁船に曳いてもらい、なんとか港についたと話していた。船長は5キロほど離れた海上から信号旗がはためいているのを確認したようだといっていた。
私が漁船の人たちに確かめても良いかと訊くと、彼はいうには、今朝の新聞によれば漁船は昨夜の嵐で沈んでしまい、船長以下は行方不明だといった。確かめてみると確かに昨夜から漁船が一隻、まだ港に帰っていないことが分かった。」
「私は彼の腕をつかみ、最寄りの警察署へ連行して、所轄の署へ連絡を取ったよ。」
なぜ、彼のアリバイに疑問があったのかな?
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