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【小説】【漫画】最近読んだアレやコレ(2020.6.11)

 今週のジャンプめちゃくちゃおもしろくなかった? 少なくとも、今年畑でとれた中では最高のジャンプだったと思います。ワンピース、ハイキュー、呪術、アンデッドアンラック、チェンソーマンが二月に一度くらいあるべらぼうに面白い回でしたし、ドクターストーンとボーンコレクションとアクタージュとモリキングも安定しておもしろい。あとゆらぎ荘の最終回もよかったですね。ゆらぎ荘、中盤くらいまではあまり興味のない漫画で飛ばし読みだったんですが、ここ一年くらいは作劇のロジカルさが際立っていることに気づき、目が離せませんでした。ジャンプで一番、本格推理小説をやっていたと思います。ラブコメのお約束に対して、反例を代入して思考実験する麻耶雄嵩みたいなことやってる回も多々あり、おったまげた記憶がある。

王とサーカス/米澤穂信

 再読。舞台はネパール。王族の死で国が揺れる中、滞在していた日本人記者が殺人事件に遭遇する。「知ること」と「広めること」の有用性と有害性。主人公である記者が、自らの職業の意味を問い直し「報道」の在り方を考える……という社会派な一冊として読むこともできますが、私は本格推理小説における普遍的な題材(名探探偵の功罪)に、新たなアプローチをかけた作品として本作を強く愛しています。ほぼ文庫版の解説のひき書きになりますが……通常、こういったテーマは、現実離れした設定の下、言葉のゲーム・思考実験として展開されることが多いんですよ。本作はそれを「記者と報道」という依代に降霊することで、現実ベースの実験として展開することに成功しています。軽やかに机上を行き来していた題材が、確かな重量感を伴って地を這うような前進と共に語り直される。高級店で買ったハンバーガーのような、ある種の驚きとリッチさを読むたびにもたらしてくれる一冊です。

セント・メリーのリボン/稲見一良

 短編集。猟犬、銃、狩り、食事、そういったもの。宝石のような物語が、世界一かっこいい言葉で綴られている五編。「小説」というくくりにおいて、ある方向性のハイエンドであり、ゴールです。「これ以上はない」と断言できるかもしれません。あまりにも素晴らしかったので、単記事としても感想をアップしました。稲見一良は本作も含めて三冊既読なのですが、今のところ全てこの領域に達しており、ある種の神がかりと言いますか、ちょっと鬼気迫るものを感じますね。ここまで具体的な感想が一切ないですが、それは一部位だけを切り出す行為が、この本が私に与えてくれたものを劣化させることに繋がる気がするからです。少なくとも私は、この読書体験を言語化し、情報量を落としてまで記憶しようとは思いません。それならば忘れてしまって、また読み直した方がいいでしょう。パルプスリンガーにとっては……こういう文言は、本来、私は嫌いなのですが……必読の一冊と言ってしまってもいいのではないでしょうか。

人類最強のヴェネチア/西尾維新

 水の都ヴェネチアで発生した連続殺人に、『人類最強の請負人』が立ち向かう。前回感想の答え合わせがしたかったので、我慢できずにメフィスト買っちゃいました。やはり、「最強」シリーズとしてのテーマは前作で完結しており、本作からは、語ってゆく内容を刷新したという印象です。それが、より先への前進ではなく、戯言シリーズよりも後ろへの後退によってなされているのが、何とまあ、哀川潤ものらしい極端なまでの温故知新。舞台を異界から地球へ、比較対象を人外から人間へ、環境をバトルものからミステリへ……という変化自体は、タイトルから何となく読めていたのですが、ここでいう「ミステリ」が本格推理小説ものではなくサスペンスだったのは予想外でした。効果的に差し込まれるサイコな犯人独白パート、ハイテンポなどでん返しとピンチの連続は、ジェフリー・ディーヴァ―×哀川潤とでも言うべき今までにない読み心地のものとなっており、意表をつかれます。

はだかの太陽/アイザック・アシモフ・小尾芙佐

 『鋼鉄都市』がおもしろかったので、続編も読んだ次第。住民同士の直接対面を強く忌避する文化を持つ、惑星ソラリアで起きた殺人事件。「ざ、在宅ワーク惑星……!」と想定外のタイムリーさにびっくりしたものの……この設定、めちゃくちゃおもしろくないですか!? 言うなれば、「登場人物全員が密室に閉じ込められているミステリ」であり、「文化的な密室」とでも言うべき代物です。その閉ざされた部屋を開錠にするにあたっては、その星の文化や思想、そしてロボット三原則を深く知る必要があり、それを捜査・推理するパートがそのまま、SF的なアイデアの展開になっているという。肝心の真相自体は、前作と比べると小粒だったのですが、十分におつりが返ってくるおもしろさです。あと、序文のラブ・ストーリー宣言を受けて、「アシモフさん急にカーみたいなことやりだしたな……」と思いながら読んでたんですが、実際にお出しされたものが「風呂上がりのヒロインが全裸で出てくる」だったのは笑い転げました。 SFの巨匠アイザック・アシモフが書く、渾身のラッキースケベ。括目すべし。


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