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最近読んだアレやコレ(2022.03.04)

 前回のアレコレから約3か月間が空きました。おそらく、人生で1番小説を読んでいなかったのではないでしょうか。もう、労働が忙しくて忙しくて……と言いたいところなのですが、普通に書き物の構想を練ったり書いたりやらが楽しくて、なんか気分がインプット方向に傾かなかっただけですね。こういう時もある。今回ばかりは労働に罪はない。正直、魂の季節がまだアウトプット季なので、目よりも手を優先したいお年頃ではあります。ネクロ13シーズン2の続きとか、今回は全部最後まで書くっつったのにまだ書いてない逆噴射小説大賞投稿作の続きとかが、自分の中でかなりHOTなのでまだそっちをやっていたい気持ちがデカい。しかし、ここはぐっとこらえてしばらく読書したいですね。栄養バランス。逆噴射の続きは我慢できずやってしまう気もしますけど……。

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卵の中の刺殺体 世界最小の密室/門前典之

 ウォーッ!門前典之の新刊!『首なし男と踊る生首』以降、さっぱり音沙汰がなく、ファンとしてはやきもきしていたのですが、一昨年刊行の『エンデンジャード・トリック』(感想)、そして昨年末刊行の本作と、比較的にコンスタントに新作が発表されている……嬉しい……。「コンクリート製の球体内で発見された他殺死体」という単純であるがゆえに、難易度の高い密室。その解答は門前ミステリらしい破天荒なものなのですが……個人的に強く惹かれたのはその外周部分、お話を成り立たせるために配置された数々の部品の方でした。シリアルキラ、嵐の山荘、隠されたとあるギミック。節操なく詰め込まれた大量の要素は、スライドパズルの邪魔なピースのごとく、精彩を欠きあちらこちらにとっちからかってゆく。中でもフーダニットのまとまりのなさは凄い。こんなぐちゃぐちゃな犯人当て見たことがない。そして、そこが、いい。たまらなく。重箱の隅まで整えた作品の方が優れているのはごもっとも。しかし、私は、この奇を理に優先させる狂い、不均衡なバランスによってぐしゃりとひずんだ小説の形を、とても愛しているのです。


第四の扉/ポール・アルテ、平岡敦

 仏ミステリ。不幸な自殺事件以降、幽霊の噂が囁かれる隣家の屋敷。そこに霊能者を名乗る夫妻が引っ越し、交霊実験が試みられる。それは新たな悲劇の幕開けだった。古式奥ゆかしい怪奇ものの楽しさと、その「作り」自体を釣り針にしたかような、大仕掛け。それはミステリとして極めてキャッチーであり、「どんでん返し」が売り文句に並ぶのも納得ですが……私は、そう言った瞬間性の驚きよりも、染み入るように描かれてゆく主人公たちの姿が強く印象に残りました。語り手のジェイムズ、作家を父に持つヘンリー、幽霊屋敷に暮らすジョン。3人の若者を中心に描かれる3つの家族の交流は、他人であるがゆえによそよそしく、しかし、互いの悲劇を突きはなすことができるほどには遠くない。彼らの日常と会話が魅力的に描かれているからこそ、そこに割り込んだ「死」と「謎」という2つの不条理は、つらく、悲しく、恐ろしく……そして、最後に待ち受けるどんでん返しにより強い意味を持たせています。最後の1行は確かに驚くべきものですが、その驚きの背景に横たわるお話が、噛みしめるほどに味わい深い。騒ぎ立てることなく、静かに読み終えて本を閉じたい名作でした。


カメロイド文部省:自選短編集⑤ブラック・ユーモア未来篇/筒井康隆

 今までの4冊も大体ブラック・ユーモアだったろ! と思わなくもないですが、通して読むと確かに意地が悪いですね。へまこいてアワアワしてる登場人物の姿が、何ともいやらしく、あからさまにおもしろがって書かれている。自分の作ったキャラをいじめることを主題にするな。収録作はいずれも風刺と読めなくもないですが、その刃はいずれの方向にも向いておらず、その刃を御大がぺろぺろ舐めながらにやついている、といった風情です。また、他者とのコミュニケーションの断絶を描いている作品が多いのも印象的でした。ユーモアという切り口で見るとすれ違いギャグになりますが、いずれもがSFとして読むことも可能であり、その際には、未知との対話のロマンと恐怖が立ち上がって来る。わからない同士が困り合う様は、滑稽で、おかしく、愚鈍で、しかし無限の可能性を秘めた化学反応に満ちている。高すぎる神の視点のなせる技。それにしても「最高級有機質肥料」は大傑作ですね。悪ふざけのようでいて、非常に上質なSFであり、しかしやはり悪ふざけなのが凄い。何度読んでも、新鮮な感動を覚えます。


上手なミステリの書き方教えます/浦賀和宏

 〈松浦純菜・八木剛士〉シリーズ、その3。凄すぎる。ヤバすぎる。こんなものが商業出版されていいのか。前回のアレコレで『魔』が読みたくてこのシリーズに手をつけた、と書きましたが、本作はまさに恥部が全部露出した剥き出しの『魔』です。寝たきりの妹のパンツをパクって臭いをかぐ主人公という地獄のロケットスタートで幕を開け、以降延々と続くのは、主人公がいかに同級生を殺してやりたいか、いかに自分が情けなく不細工かというあらん限りの呪詛。前作はその狭間を塗って、本筋のストーリーが展開されたわけですが……本作にはそう言ったお話らしきものは特になく、代わりに描かれるのは、「萌え文化」がいかに醜く許せないかという登場人物による身勝手なバッシング。嘘だろ。呪詛の中休みに呪詛が挟まる、怨念と劣情のサンドイッチが完成しちまった。しかも300Pにも渡って語られるそれらのぶつくさは、発展性がなくほぼ同じ内容の繰り言なのだから凄まじい。なんだこれは。そして上手なミステリの書き方はいつになったら教えてくれるのか。作者のほかほかの反吐を延々浴びせ続けられる読書体験は、ただの苦行のようでいて、しかし、最後には意味不明なほどのパワーに満ちた、1つの救済が描かれます。その光景には、この苦行の全てがそれだけで許せてしまうよな、《力》が宿っています。これが読みたかった。傑作。



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