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最近読んだアレやコレ(2021.08.28)

 1ヶ月越しにやってきた引っ越し疲れ、そして地球とかいうカス野郎が舐め腐った態度で気温を上げ下げするせいで完全にバテてしまい、インプット筋もアウトプット筋に衰えに衰え……死……。雨露を舐めるがごとく漫画の再読で命を繋いでいたため、noteの更新が前回から1ヶ月以上空いてしまいましたが、ぼちぼちやっていきましょう。よろしくお願いします。アレコレを書くときは、毎回、前回更新分からフォーマットを拾ってくるのですが、noteの記事一覧を開いたら、書きかけ状態で放置していた忍殺再読感想文が恨みがましくこちらをにらんでおり、申し訳なくなりました。申し訳なくなったけど忍殺の再読感想文はカロリーの消費量が高いためとりあえずアウトプットのリハビリとしてこのアレコレを先に綴ることにしましょう。全部地球が悪い。いきなり奇声を上げてふざける子供みたいに猛暑したり豪雨したりするのをやめろ。46億年も生きていて恥ずかしくないのか。

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エジプト十字架の謎/エラリー・クイーン、中村有希

 とある小村の道導に、そして別の土地のトーテムポストに、連続して括り付けられた首なし死体。「T」の字を模した現場状況が意味するものは何か? クイーンの長編は、「はいはいどうせ超おもしろい傑作なんでしょ」と鼻ほじりながら余裕の態度で読み始め、そして実際に「ひゃぁ~!やっぱりめちゃくちゃおもしれぇ~!」となるので、なんというか安心力が違いますね。博打をする必要が全くなく、気安く時間と体力を投入できる。異常な精度と深度でロジックを繰り続けるシリーズ前4作とは趣向を変えて、謎解き物の肝となる「解決編」は比較的オーソドックスに……代わりにそこに至るまでの「問題編」を、極上のサスペンスに仕上げた傑作でした。エラリー・クイーンはステータスカンスト作家であり、謎解き以外をやらせてもちょっとおかしいレベルで凄い。何度も何度も読者にぶつけられる真相暴露と急展開は、全てが最善最適なタイミングで行われ、読み手の脳を怒涛の「おもしろい」で痺れさせる。エラリーと恩師ヤードリーのコンビもカワイイに溢れており、他の登場人物たちも喋るだけで楽しいが満ちてくる。あと、作中で「言う程これ『エジプト十字架の謎』か?」と、自分でつけたタイトルにケチをつけまくるのがひねくれてて好きです。


オフィスハック/本兌有、杉ライカ

 再読。殺人人事部がコンプラ違反した悪徳社員を銃撃戦で解雇する、社会人ガンアクションパルプ小説。久しぶりに読み直したら興が乗ってしまいkindleで単話販売されている第3話、幻冬舎+で公開されている第4話と第5話も読んでしまいました。単純明快痛快無比なアクションものとして楽しむことができるのと同時に、「殺人」という小骨が喉にひっかかる奇妙な読み心地がやはり素晴らしい。サラリーマンが苦しみ、時には都合よく利用するローカルな社内文化……働いていると嫌でも感じる「あの感じ」に対する丁寧な描写は「殺人で社員を解雇する人事部」という破天荒な設定を、生きたまま徐々に温度を上げて茹でられる海老のように読者に飲み込ませてしまいます。そして飲み込んだ後になってから、よりド派手に強調され、「いや殺人だぞ、そんなわけないだろ!」と再度腹の中で暴れ喉から飛び出てくる。この反芻、共感できない/共感してしまうの矛盾が何故か成立してしまう座り心地の悪さこそが本作の最大の魅力だと思います。そして、それはこの作品を、アクションパルプ小説であると同時に、日常SF(すこし・ふしぎ)奇譚としても完成させています。備品用テプラの貼られた拳銃、なんですよね。


ダブ(エ)ストン街道/浅暮三文

 文庫裏表紙のあらすじがめちゃくちゃいいので以下引用します。

 タニアを見かけませんか。僕の彼女でモデルなんですけど、ひどい夢遊病で。ダブエストンだかダブストンだかに探しにきたんです。迷い込むと一生出られない土地なんで心配で。王様?幽霊船?見ないなあ。じゃ急いでるんでお先に。

 最高。このあらすじに感じる、すっとぼけぶり、ふざけぶり、愉快さ楽しさ、そしてちょっぴりの鼻持ちならなさこそが、まさにこの『ダブ(エ)ストン街道』という小説そのものだと思います。登場人物全員が異なる呼び方で呼ぶ、道なき街道、ダブストン/ダブエストン/ダベットン/……/ダベーストン街道を行き交う、奇妙な迷子たちの奇妙な迷走。唐突に本編と関係のない幽霊船の船員たちの日常が描かれたかと思えば、それが何ともよくわからない方向から恋人を探す主人公のストーリーに合流する。イベントはどれも沼の底から湧いてきた泡のように突拍子もなく発生し、なんなのかわからないままに過ぎてゆく。そんな迷い歩きの中では、出会いも別れもどこか不真面目で、薄皮一枚向こう側の騒動を眺めているような他人事。それなのに、最後で描かれる旅の一幕、道に迷い続けた先にふと通りかかった景色の風景は、あれだけすっとぼけていて、ふざけていたはずなのに、信じられないくらい輝かしく、笑顔になってしまいます。名作でした。お勧めしたい。


堕天使拷問刑/飛鳥部勝則

 両親を事故で亡くした中学生タクマが引き取られたのは、かつて奇怪な惨死事件の起きた「とある田舎町」だった。祖父が遺した悪魔信仰の形跡、月光を仰ぎ見る美少女、逆巻きのバベルを模した美術館、森の闇に潜むヒトマアマ。町人たちの連帯により治外法権と化したその土地では、魔女狩りや殺人すらもが容認され、全てが歪みへと呑まれてゆく。ボーイミーツガールへの陶酔、モダンホラーへの憧憬、美術への傾倒、そして、本格探偵小説への異常とも言えるほどの執着と絶望と諦念と愛。最早バカバカしさすら感じるほどにグロテスクが加速した先に待つカタストロフィと、ソフトフォーカスがかかって見えるほどにポエティックな美少女との語らいと。和風のガジェットと西洋の悪魔趣味が節操なくミキサーにかけられた「とある田舎町」の街並みは、まさに『飛鳥部勝則』という小説家/美術家/人間の、愛し憎んだ全てをミキサーにかけてゼラチンで固めたこの小説のように、がむしゃらで、気狂いで、度し難く、過剰です。読んでいてこれまでの著作の全てが走馬燈のように浮かんでは消えるこの体験は、まさに『飛鳥部勝則』の総集編にして総決算。長い長い創作の夢にピリオドを打つようなこの結末の先に何があるのか。次作の『黒と愛』を早く読まないといけません。


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