最近読んだアレやコレ(2021.02.10)
最近、switchでピクロスばっかやってたんですけど、「もう少し、ハードの性能を生かしたゲームをやるべきなのでは?」という内的葛藤がありましたので、『ゴルフストーリー』で遊ぶなどしています。万物全てをゴルフ化し、あらゆる出来事をゴルフで解決してゆくゲームなんですが、その徹底的に偏った世界観がホビーアニメチックでいいですね。あと、登場人物がろくでもない奴しか出てこないのがよい。「ドラマを作る上で、事件が必要なので、どうしても業界内に悪人が多くなってしまう」という料理漫画などによくある作劇都合上の問題ではなく、必要もないのに素でほぼ全員性格がクソ煮込みという徹底ぶりが愉快です。これが紳士のスポーツ……!
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陰摩羅鬼の瑕(1)/京極夏彦
世界有数の鳥類剥製を蔵する、白樺湖畔「鳥の城」。その城主・由良昂允と婚礼を挙げた花嫁は、初夜の夜、必ず何者かに殺害されてしまうのだという。自分にとってのオールタイムベスト小説の1つであり、読み返すのもこれで5度目か6度目でしょうか。単巻文庫版、ノベルス版を所有しているのですが、今回は気分を変えて電子書籍版を購入して読みました。なので、感想も3回に分かれます(電子書籍版は(1)~(3)の3分冊)。小説というハードが持つ性能に対し、限界とも思えるほどの解像度で描画されている「鳥の城」という舞台の凄まじさたるや、何度読んでも息をのんでしまいます。物語序盤で骨子の全てを明かしてしまう構成はもちろん強烈ですし、事件/妖怪の構成要素として極めて精密に組み立てられてゆくキャラクターたちの造詣も素晴らしいことには違いありません。ですが、この『陰摩羅鬼の瑕』の最大の「よさ」は、やはり舞台美術の、はなはだしさ、美しさにあると私は思います。ここには、本物の異界の風景があるからです。志水アキ版のコミカライズ出ないのかな~。私は見開きで紙面上を剥製と書物が埋め尽くす画が見たいんだ。
忍者と極道(3~4巻)/近藤信輔
暴走族神(ゾクガミ)編をまとめて。前章・カブチカ編の時点で既に露わになりつつあった、「グロテスクな聖性」とでも呼ぶべき本作の特徴は、このシリーズにおいて、より濃く、より強く、よりおぞましく打ち出されることとなりました。虐殺と非道を特に意味もなく他者めがけてぶちまける極道たちの無為な蛮行は、到底共感できるようなものではない。しかし、物語の熱狂が倫理のボーダーを焼き尽くし、読者の手を「向こう側」へと強く引きっぱります。その手を引く強さは、ちょっとこれマジで読んで大丈夫なのかと危うさすら感じてしまうほどであり……ゆえに、その混乱を打ち破り、容赦なく極道を殺す忍者たちのヒーロー性が、際立って輝くことになる。しかし、今回のシリーズボス、殺島の最期は何度読んでも凄い。銃弾すらをも我が身に迎え入れる神の包容力と、ゆえに、自らをずたずたにしてしまう等身大の精神。諦めて受け流すのではなくあくまでも「反発」する在り方と、その自業自得でしかない破滅を目の前の誰かに押し付ける邪悪さ。個人的な問題を「世界の終わり」だと言い切る、その有様。彼の極道技巧には、殺島飛露鬼という人間の、聖性と醜悪さ、全てが詰まっています。
トライガン・マキシマム(1~14巻)/内藤泰弘
再読。kindleの整理をしていた時に、データの奥底から発掘され、ぱらぱら眺めるだけのつもりが、おもしろくて全部読みなおしてしまいました。かっちょいい台詞とかっちょいい話とかっちょいい画をぶちかまし続けるために全てが設定され組み立てられているという、お子様ランチみたいな快楽度数の高さがやはりよい。ラズロさんが、デケェ十字架を3つバーン!と並べるシーンがほんといいですね。何度読んでも、心の中の小学5年生が、ガッツポーズをします。そして、そんないい意味で「子供っぽい」印象が、どこまでも2人の子どもの喧嘩でしかないストーリーと相乗効果を呼び起こし、かっこよさの中に色気を備えた繊細さをもたせているのが好きです。ウルフウッド、ヴァッシュ、ナイブズ、そして惑星ノーマンズランドの人間社会と、とことん「大人に見えるけれど、実は子供たちのお話」なんだなと。あとGUNG-HO-GUNSのみなさんが好きですね。食うのも精一杯なこの土地でよくもまあそんなトンチキ戦闘術訓練したなとか、ミカエルの眼の謎超技術はもっと生産的なことに生かした方がいいのではとか、SFテクノロジー関係なく生(なま)の人体で能力者やってるミッドバレイさんが1番ヤバくないかとか(現代日本でも彼は同じ事が出来る)、いがぐりの人とか、色々滋味深い。
叫びと祈り/梓崎優
砂漠を行くキャラバン、スペインの風車の丘、ロシアの修道院。世界各国を巡る旅人が、様々な土地で行きあった事件を集めた連作短編集。読み逃していたビッグタイトルに☑を入れようという気軽な気持ちで手に取ったのですが……1編目「砂漠を走る船の道」で、完全にぶん殴られる羽目になり、そのまま、すげえすげえこれはとんでもねえものを読んじまったと読み進める破目になりました。異国を舞台としたこの連作ミステリで取り扱われるのは、読者の既成概念をひっくりかえす「異形の論理」です。理解(わか)るが、共感(わか)らない、ということです。殺人と謎解きというミステリのフォーマットを用いて繰り返されるこの異文化コミュニケーションは、我々の前に常に新しい価値観を、そして、生まれて初めてみる光景を創造せしめます。読者の盲点でありながら極めて明白な「当たり前」を鮮やかにつきつける「砂漠を走る船の道」、箸休めめいたカロリーでありながら結末が実に憎らしい「白い巨人」、組み上げた論理の先端からひょいとジャンプし、真相をはるか遠くの彼岸にまで届かせてみせた「凍れるルーシー」……そして、3編かけて積み上げた推理小説的趣向を物語として昇華させ、完成させる「叫び」と「祈り」。ホワイダニット(なぜそうしたか?)における、1つの到達点ではないでしょうか。最高。超おもしろかった。