見出し画像

最近読んだアレやコレ(2022.09.11)

 出るらしいですね。『鵼の碑』なら狂喜するし、『オメガ城の惨劇』は油断なく待っているし、『双子連続消失事件』ならひっくり返るし、『鏡姉妹の動物会議』ならしみじみと嬉しみますが、〈戯言シリーズ〉の続編は、それはもうさすがに「殺るか殺られるか」であり、完全に「魂」の話になってしまうでしょうが。舐めるなよ。「続編が出ること自体が戯言」だなんて、言葉を弄んでへらへら笑ってる場合ではなく(それは西尾維新の仕事で、読者の役目ではない)、紅を塗り、刀を帯び、覚悟を決める必要がある。「後時系列の作品が発表されたことで『世界の終わり』の否定は明示されたが、シリーズ完結に伴ってややうやむやになっていた『物語の終わり』が明確に否定されることには大きな意味がある」「意味はあるが、価値があるかどうかは確かめたい」「戯言で語ることで道筋が歪んだ物語をさらに語り直すのならば、そこに使われる言葉が何なのかを見定めたい」と既に支度も終えました。首を洗って待ってろって言われたからには、ちゃんと洗っておかないと。

■■■

あなたにおススメの/本谷有希子

 サイバーパンク育児小説「推子のデフォルト」と、ディザスター家族小説「マイイベント」を収録した1冊。本谷有希子の小説らしく、破壊的なほどに戯画化されたキャラクターがむちゃくちゃに暴れ狂っており、実に健康に悪くて素晴らしい。けばだつほどに原色な、愚かな人間どもの苦悩と破滅を、「コココ……キキキ……」と邪悪な笑みと共に読む快楽は他に替え難いものがあり、作中でも「やっぱり生のコンテンツは最高ね」と激賞されています。他人の不幸をコンテンツとして啜る邪悪な主人公たちのろくでなしさは凄まじく、しかし、彼女たちの脳から読者へと直(ちょく)に流れ混んでくるその気持ちよさには抗いがたい。邪悪な笑みと共に差し出された『あなたにオススメの』というタイトルを振り払うことは難しく、「へへへ……もちろん、大好きでございやす」と汚い追従笑いを浮かべて受け取ってしまう。読み方によって、2編ともある種の社会風刺ととらえることもできるでしょうが、個人的にはただ性格が悪いだけであって欲しいと思います。大切な物は壊れ、子供はおもちゃになり、可愛い動物は死ぬ。最悪(最高)~!


わが愛の税務署:自選短編集⑥ブラック・ユーモア現代篇/筒井康隆

「現代篇」と銘打たれていますが、収録作はいずれも60年代発表とかのものであり、過ぎ去った時代を記録した資料として興味深く……と言いたいところですが、作品の基盤になっているものが悪意と偏見しかないので、さすがにこれで60年代を語るのは、60年代が可哀想なんじゃないでしょうか。風刺小説というよりも、風説という感じであり、作品を通してそういう行為をしていること自体を、自覚的に滑稽に描いている節があるのもおもしろい。何もかもをバカにしており、そのバカにするというスタンスすらも、自らバカにしている。傲慢なまでのレイヤーの重ねぶりに、呆れにも似た痛快さを覚えます。どの収録作も好きですが、「晋金太郎」が特におもしろかったです。殺人犯に自宅に押し入られた家族が、TVに出られると大喜びして殺人犯を歓待し、立てこもられたまま犯人をタレントとしてプロデュースする話。落語みたいで愉快です。サゲもろくでもなくてよかった。


怪盗フラヌールの巡回/西尾維新

 父が盗み出した宝物を返して回る、返却怪盗フラヌール。此度のターゲットは「玉手箱」。返す先は海底の竜宮城。怪盗、名探偵、警部。全てがずれた歯車の上で世代をまたいで役者がそろった時、事件は起こる……。「夢とロマン」を盗み出す怪盗の犯行は、作中で何度も何度も否定され、それらは現代の理屈を持って元の木阿弥に返されてゆく。「怪盗」だけにとどまらず、「研究者」や「警部」すらも、西尾作品にしては驚くほどにオーソドックスな味付けがされた「一代目」と、それと比較するように、過剰なまでに西尾維新的な味付けがなされた「二代目」が登場する。テンプレートとその否定を擦り切れるほどにこすり合わせることで確かめるのは、「あの頃見た、夢とロマンは何だったのか」という自問自答であり、そこには「今となっては」「それでも」「それでも」「それでも!」という祈りと、「その次に書くべきものは」という創作の熱が満ちている。ゼロ年代ミステリ最大の呪術者の1人でもある西尾維新がこれを書いたという事実に自分でも驚くほど感動してしまった。「名探偵」だけが、古きよきテンプレートに回帰することで新しさを獲得してるのも、西尾維新の推理小説観が垣間見えておもしろかったです。続編が楽しみ。


殺人犯 対 殺人鬼/早坂吝

 嵐の孤島に取り残されたのは、殺人犯と殺人鬼。残された被害者の数は有限個。殺人計画と殺人衝動が火花を散らす殺人陣取りゲームが始まる! キャッチーなシチュエーションだけでワクワクしてしまいますが、2人の犯人それぞれの動機と特性を噛み合わせ、誰をどちらが殺すのか、その犯行の何が必然であり、何が偶然なのかと一手一手を着実に積み上げてゆく丁寧な進行にもうっとりします。2つの異なるジグソーパズルを理詰めで組み上げ、1枚の画を完成させてしまうその手はずの鮮やかさには、早坂作品は本当に真面目だなあと微笑んでしまいますし、あまりにもあまりな驚いていいのか怒っていいのかわからない脱力感あふれるオチには、早坂作品は本当に不真面目だなあと爆笑してしまいます。誰よりも本気で軽薄を、何よりも真面目に不真面目をやっている早坂ミステリは、常にその天秤を最適なバランスで保っており、何というか、ほれぼれとしてしまいますね。「完成させたい推理小説」に向けて、全てがまっすぐに実行されている気持ちよさを感じます。おもしろかった。


この記事が参加している募集

読書感想文