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『川っぺりムコリッタ』を読ました。

この本を読み終えた瞬間に、私は一つとても後悔をしました。
なぜ炊飯器をセットしておかなかったのかと。

忙しいから、帰りが遅くなったから、めんどくさいから、スーパーに行けば何でもあるし…
なんだかんだと理由をつけて私は食事を作る時間をつい端折ってしまいます。
煮物、揚げ物、ほうれん草のおひたしにサラダ、そして炊けてから一度冷めたご飯。
たいていのものが並ぶ棚を前に、気分や値引きのシールによってあとは私が選ぶだけです。
炊飯器の蒸気口から立ち昇る、あのご飯の炊ける匂いは大好きなのに、それすらも私の部屋では滅多に匂うことはありません。

妖艶な雰囲気を醸し出しつつ無愛想な大家さんとその娘、お揃いの黒スーツを着てうつむいて歩く親子というそれぞれに何か訳ありのようなハイツムコリッタの住人たち。
そんな中、誰とも関わらずひっそりと過ごしたいと思っていた山田のパーソナルスペースをぐいっとこじ開けるようにして入ってくる図々しい島田。
いきなり風呂を貸してだとか冷蔵庫から勝手に発泡酒は飲むし、ご飯がちょうど炊き上がる頃に自分の茶碗を持ってやってくるとか、なんですかこの島田って人は。こんな人が隣人だなんてそりゃ無理無理無理!無理です。
でも、熱中症になっていないかとか心配をしたり、育てた野菜をくれたり、ポツリと言ったささやかなシアワセの話しだとか…なんだかむかし一人はいた近所のおばさんのような、人をほっておけないようなやさしさがじわりじわりとしみてきます。
無愛想な大家さんの南さんも、うつむいて歩く溝口親子もそして山田もみんな少し不器用で距離の取り方がわからないだけで、本当は他人を避けている訳ではないのだろうなぁ。
炊き立てご飯にイカの塩辛。ただそれだけでも「おいしいね」って言いながら誰かと食べられるというのはやっぱりシアワセなことなんですよね。

私は今、二つめの後悔をしています。
これを書き終わる頃に炊き上がるように炊飯器をセットしておけば良かった!と。
家の隣には島田さんはいませんが。

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