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トリガー

「元気があればなんでもできる」と、かの伝説のレスラーは叫んでいた。
歳を重ねれば重ねるほど、この言葉が心に沁みる。

人生の折り返しの年代に入り、強くなってゆくものと、なんてことない一言で、豆腐メンタルに陥るものとある。
元気な時なら、この揺らぎさえも「楽しんでいきましょうかね」と思えるが、弱っている時は一気にグンっと、酷く落ち込んでしまうのだ。

先日、仕事の繁忙週を乗り切り、ちょうど給料もでたので美味しい定食でも食べてかえりましょう、と企てていた時のこと。
深夜帯にしか開かない定食屋があるのだが、ちょうど開店時間に伺ったところ、「今準備中なんですいません」と入店を断られてしまった。
おかみさんが1人でお店を切り盛りしている小さなお店で、店内の席数も限られている。
そうか、それなら仕方ないと思ったが、しかし、視線の先にはその「準備中」の時間すでに男性客2人がビールジョッキの半分ほどを飲み、酒の肴をつまみながら談笑していた。

はて、準備中とはなんだろう?
言葉の意味を考えた。
席数も限られている。1人だと1席の客単価が少ないから断られたのだろうか。
サッと食べて帰宅するので、お店の回転が悪くならないよう配慮はできるつもりでいる。
いろんな角度で断られた理由を並べてみるが、心にマチ針が刺さったように、なんだかモヤモヤが止まらなかった。

そうなるともうダメである。
「準備中なので入店お断り」という事実だけのことが、自分自身を拒否されたような気持ちになってしまった。状況も状況だから、そう捉えても仕方のないことだろうけれど。

ひたすら1人で入れるお店を探し歩いていると1時間が経過していた。諦めて家で食べればいいのだろうが、ここまでくると「美味いものを外で食べて帰る」が本日の使命のようになっている。
運動不足だし、いい散歩になった、と言いきかせた。それでもなお、心にはマチ針が刺さったままである。
こんな時にPayPayで買い物をしようものなら、くじ引きに表示された「ざんねんでした」という言葉ですら、心にくるものがある。
引き寄せの法則もあるようだが、このゾーンに入ると、追い出したはずの、こびりついた不安や自己否定なども拾いに行くのだ。
こうして用意された数々の事象の中でシンデレラフィットするピースをセットし、引き金をひくのは自分の心である。

グルグルと賑わう店を眺め歩きながら、1人で入りやすそうな焼き鳥屋を見つけた。“○○店”とあるから、おそらくチェーン店だろう。行きつけの店がない私には、誰でも迎えてくれるチェーン店の存在はありがたかった。
焼き鳥もいろんな種類があり、オーソドックスなものからガーリックバターや塩・タレ以外の薬味などを纏った変わり種なんかもある。
食べるしかないだろう?
爆食をした。おおよそ、誰かと一緒に飲みにいけるであろう金額分を食べ、満足した。
心を満足させるための食事だったが、1日の最後に詰め込んだカロリーで、今度は体重増加のトリガーも引いたのだ。

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