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台湾料理、意麵(ì-mī :イーミィ /薏麵・伊麵)

 意麵(ì-mī)はアヒルの卵、または鶏の卵が練り込んであり、かんすい(鹹水、鹸水)が使われた麵。麵生地に機械で圧力をかけて成形する関係で、波打ったような形のものや、真っ直ぐで平べったい形のものがある。色は黄色いものと少し黄味がかったグレー色のものがある。保存しやすくするために意麵をさらに油で揚げて成形したもの(これを鍋燒意麵と呼ぶ店もある)もある。麵に卵が多く含まれているので油で揚げると膨らみ、サクサクの食感になる。汁を吸いやすいので、このタイプの意麵は汁がある料理に適している。そして、非常に短時間茹でるだけで柔らかくなる。
 
 この揚げた意麵を使った代表的な料理に台南で有名な「鱔魚意麵」がある。これは田うなぎ入りの甘酸っぱい餡かけの意麵である。また、台湾だけでなく香港や中国のその他の地域などにも意麵(意麵のルーツは中国だが、台湾の意麵が有名になり、それがまた香港や中国へ伝わったという説がある)があり、香港系料理では意麵を香港の甘い醤油でサラッと汁気を飛ばすように炒めたものが有名だ。 

乾意麵
鱔魚意麵

 台北では台南名物「鱔魚意麵」が食べられる店は少ないが、乾意麵(ta-ì-mī)と呼ばれる汁なし和え麵タイプのものはあちらこちらの食堂や屋台でよく見かける。タレには豆油膏(ちょっと甘くて、どろどろした醤油)や甜辣醬、海山醬などの赤っぽい色をしたどろどろの甘辛いソースが使われている。また、肉燥(肉そぼろ)をかけたものもよく見かける。

 ちなみに台湾では麵料理名に「乾」の字が付くとスープが入っていないタイプで、タレや調味料、おかずなどと一緒に和えて食する麵料理である。そして、食堂や屋台によっては麵料理の麵の種類を自由に選べる場合もけっこう多く、通常は油麵(台湾伝統の黄色い麵)や白麵(中国北方系の白い麵)を使う麵料理を意麵に変えて作ってもらうことができる店もある。

鱔魚炒意麵
當歸塗虱頭(ナマズの頭)

 また台北市内で台南名物「鱔魚意麵」を売る店では、「塗虱頭」(thô͘-sat-thâu =なまずの頭)や「當歸塗虱麵線」(tong-kui-thô͘-sat-mī-sòaⁿ=なまずの薬膳スープそうめん)といった塗虱(thô͘-sat=なまず)や當歸(tong-kui=とうき。セリ科の多年草で山地に自生し,薬用にも栽培される)を使った薬膳スープ料理も売っているのを見かける。そして、最近ではコンビニの弁当としても意麵を使ったものもある。

炒海鮮鍋燒意麵(油で揚げた意麵)

実は意麵の起源については以下の4種類の説がある。
①:オランダ時代の後、台湾を統治した鄭成功の炊事兵であった福州人が台湾台南の鹽水で作った麵。それで「鹽水意麵」や「福州意麵」という名称もある。また、鄭成功時代でなく、もっと後の時代に台湾に移住した福州人が福州式の製麺方法で作っていたからという説もある。

②:麵生地の塊を作る際にアヒルの卵を加えるので生地は硬めになり、力を込めて捏ねる度に「イー!イー!イー!」という声を出すので意麵と名付けられた。

③:アヒルや鶏の卵を加えた生地から作る麵の色が「如意(にょい=僧が読経や説法の際などに手に持つ道具。孫の手のような形状をしている)」に似ているために意麵と名付けられた。

④:「伊府麵」または「依附麵」、「御府麵」などとも呼ばれる今で言うところのインスタント麵の一種が意麵のルーツ。「伊府麵」は清朝乾隆年の有名な書家であり、揚州知府の地位にあった伊秉綬(いへいじゅ)の家の台所で麥という姓のシェフによって作られたので「伊府麵」と名付けられた。後に略称の伊麵から意麵に変わってしまった。またインスタント麵の類は中国で生まれ、数百年の歴史があるとも言われている。台湾では昔、この類の麵は中国の汕頭からの移民によって販賣されていたので、「汕頭麵」(soàⁿ-thâu-mī)とも呼ばれる。(しかし、現在の台湾では意麵や汕頭麵と呼ばれるものがインスタント麵だというイメージはないようだ)


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