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香港軽食の廈門炒米というトマトケチャップで炒めたビーフンを通してケチャップの語源について片倉佳史さんと対談しました。

ケチャップの語源を考える~台湾グルメ漫談

 台湾にも香港人やマカオ人経営の茶餐廳と呼ばれる香港系軽食喫茶店があり、若い人の間で人気があります。茶餐廳の料理は欧米文化や南洋文化の影響があるようなちょっと洋食風の庶民的な広東香港料理です。その茶餐廳の定番メニューに「廈門炒米(アモイ焼きビーフン)」と命名されたトマトケチャップで炒めた焼きビーフンがあります。廈門(アモイ)は中国福建南部にある都市の名前ですが、実はケチャップの語源は中国福建南部や広東東部の閩南語系言語ではないかと言われています。閩南語系言語で魚醤を表すkechiapkoechiap がマレー半島に伝わり、マレー系の人達が使う魚醤や醤油のことがkichapkechap と呼ばれるようになって、それがイギリス人によって、イギリスに伝えられ、アンチョビー、マッシュルーム、クルミ、エシャロットや香辛料などを原料としたソースになり、それがヨーロッパ各地に伝わったという説があります。

 また、中国の福建や広東からアメリカへ渡り大陸横断鉄道の労働者となった人達が作ったトマトと魚や肉の煮込み料理をアメリカ人も美味しいと思い、アメリカ人がこの赤いソースは何だ?と聞いたら、中国人が自分の故郷の言葉でkechopketsiap などと言って、それを聞いたアメリカ人が真似をして、トマトベースのソースを作り、それをketchup と呼ぶようになったという説のあります。魚醤の類は現代台湾語でも膎汁(または鮭汁)と漢字で書かれ、kôe-chiap や kê-chiap などと発音されます。香港の人がこのケチャップと廈門(アモイ)でも使われる閩南語と関係があるということを知っていて、ケチャップで炒めたビーフンを廈門炒米(アモイ焼きビーフン)と名付けたのかどうかは僕も知りません。でも、おそらく知っていたのでしょう。

廈門炒米(アモイ焼きビーフン)
廈門炒米(アモイ焼きビーフン)

 香港人やマカオ人経営の茶餐廳で提供される馬來炒貴刁 ( 粿條 ) はカレー粉やターメリックと一緒に炒めた平べったい形をしたライスヌードゥルです 馬來はマレーのことで、貴刁は台湾語で言うところの粿仔(kóe-á)や粿仔條(kóe-á-tiâu)、粿條(kóe-tiâu)と呼ばれる、ライスヌードゥルのことです。これは中国福建省の閩南語や広東省の潮州語(閩南語系言語)から広東語に流入した外来語表現だと思います。香港系の飲食店ではこの貴刁という漢字表記が使われます。カレー味にすることで南洋風の料理に仕上げ、南洋をイメージするマレーという名称にしているのでしょう。実は茶餐廳の料理には地名を付けたものが多いです。今回紹介したのはカレー味の粿條ですが、カレー味の焼き米粉は星州炒米という名称が付きます。星州はシンガポールのことです。

 平たいライスヌードゥルはタイやインドネシアなどの東南アジア諸国でも台湾語と同系統の言語である中国福建省の閩南語や広東省の潮州語の粿條から取り入れた外来語表現が使われていて、それらの国々でも現地語で粿條と似たような発音の名称になっているので、台湾語や中国閩南語を知っていると、東南アジア諸国の食文化にも親近感を持てると思います。

馬來炒貴刁 ( 粿條 )

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