見出し画像

議員さんが家に来た日

今となっては、障害のあるニンタの小学校生活に大きな心配はない。もちろん、小さい心配事はたくさんあるし、私自身がどうやって小学校と付き合って行ったら良いのか分からない、ということはあるとしても。

そして、小学校入学前は今とは比べものにならないくらい、心配が山盛りだった。実際に小学校の支援級に通っているママさんから、今までに起きたトラブルも聞いていたし、なんとなくうまくいっていないんだな、ということは情報としてあった。

説明会当日も、特に準備がされていなかったらしく、支援級に見学に行ったらちょうど休憩時間だった。親たちはその前に、普通級の一年生がシッカリと勉強する姿を見学している。しかし今、目の前にあるのは、支援級の子が散らかった教室で好き勝手に遊ぶところ。タイミングが悪かったとは言え、参加者の親たちの表情がこわばるのが目に見えてわかった。

夫にそのことを話すと、夫は長く地元に住んでいた友達にそれを話した。私たちはここに住んで10年ほどで、あまり地元情報に詳しくない。すると「この議員さんが小さな相談事にも熱心に乗ってくれているみたいだよ」と、1人の市会議員さんを紹介してくれた。夫も気軽にその市会議員さんのホームページに「障害のあるこどもの小学校入学が心配だ」と書くと、すぐにお返事が来た。「お話聞かせてください」とのことで、次の週には我が家に来てくれることが決まった。

びっくりした。そんな人がいるのか。もし相談に乗ってくれたら、もちろん次の選挙では応援したくなってしまうけど、この夫婦の2票でどうにかなるか?損得で考えたらどう考えても議員さんの得になるような案件ではないのだけど。

「世の中の全ては損得で動いている」。いつの間に、私はそういう考えになったのだろうか。わきあがる感謝を上回る「なぜ?」の気持ち。いやいや、素直に感謝しましょうよ…と、私は自分の薄汚れた考えをしまい込んで、もし良かったらご一緒に、と同じく支援級に進級する予定の親御さんや、今まで支援級に在籍していた方など、知り合いに声をかけ、私たち夫婦とママ友、合計4名でお話をさせてもらった。

議員さんは私たちよりもずいぶん若く見えた。けれど、落ち着きがあって話し方が上品でとても年下とは思えない、ううむ、やはり議員さん…と、早くも肩書きに飲まれそうになる自分を押さえ込んで、応対する。土日は自転車であちこちを回ってこんな風に相談に乗ったり会合に参加したりしているらしい。小さなノートパソコンを広げて、私達の心配事をふむふむと聞いてくれる。そして、「この問題に関しては、相談窓口はドコドコで〇〇さんという人がいます」「この問題に関しては、市の制度の問題なので、持ち帰らせてもらって議題にあげたい」と、具体的にすぐに答えられることと長期的な問題とに分けて解説してくれ、「貴重なお話を聞かせていただいて、ありがとうございました」。と帰っていった。

人を見た目で判断しない。肩書きで判断しない。私はそういう理想からずいぶん離れたところで生活していたらしい。議員さんが家に来る!ということで、ひれ伏してしまう私は、こどもに道徳的なことなど全く語る資格がないのだな、と、ハハハと笑うしかなかった。

来てくれた議員さんも、そういうことを求めて来た訳じゃないだろうに。勝手にひれ伏して申し訳ない。

とにもかくにも、議員さんが家に来てくれたことによって、小学校進学に対しての不安がずいぶんとやわらいだ。相談窓口がわかったので、小学校入学前に実際に相談をして、この先も問題が起こったら一つ一つ解決していくぞ、という決心もできた。しかし入学式、蓋をあけてみると、ものすごく熱心な先生が支援級を担当してくれていて、支援級の制度も教室のレイアウトも何もかも一新されたので、最悪の事態を覚悟して入学した私としては、嬉しい肩すかしをくらったのだった。

その後も、ニンタの食事療法の助成についても、夫は議員さんに相談していて、後日もう一度家に来てくれた。ご近所らしいが、こんなにヒョイヒョイ来てしまって、面倒なことに巻き込まれないか、他人事ながら心配になるほど親切だ。

障害児を育てていて、何か要望を通そうとすると、優しい笑顔を作りながら、「でもね…」と逃げていく人がたくさんいる。あるいは、「政治の腐敗」をたたくメディアがたくさんある。自分の実体験や、メディアの影響などで、私はずいぶん人間不信になっていたんだな、と思った。

人間不信になると、人に助けを求めることに消極的になっていく。人間不信は自分自身の首を締めてしまうから、「助けてくれる人もいるし、助けてくれない人もいるよね!」というフラットな気持ちを持っていたいと思う。

一年以上前の話なのに、どうしてこのことを書こうと思ったのか。一つ目は、障害児のいる家族(ケアラー)について、よその地域だけれど議員さんが発信しているnoteを読んだから。こういうことを考えてくれている人がいる、というのはとても希望的なことだった。

もう一つは、最近友達にこの話をしたら「え!家にまで来てくれる議員さんがいるの?」と驚かれたから。やっぱり、みんなそんな人居ないって思っているのかもしれない。

政治と生活というのは、とても距離があって、でも政治が生活を動かしている。私はただ遠くから眺めていただけの人間だったけれど、せめて、偏見を持って見ることだけはやめようと、今更ながら思っている。





サポートいただけると励みになります。いただいたサポートは、私が抱えている問題を突破するために使います!