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知的障害で視力検査が難しかったら

視力検査って、あの「C」のマーク(ランドルト環)を見て、上とか下とか言えないと難しい。

だから、就学前のニンタの視力検査は諦めていた。出来ないものは仕方ないし、遠くのものも近くのものも、会話の内容によると見えているようだから、まあいいか。

でも、医療の側としてはそうは行かないようで。健康診断で「診断不可」か何かになった後だったろうか、再検査したいので来てほしいと、保健所から委託された医療機関から連絡があった。心配してくださるのは有り難い。

「知的障害があって、まだ検査内容を理解出来ないんです。ランドルト環だけでなく、動物のシルエットを答えるものも、まだ理解できません」そう伝えると「でも、小さい時の視力異常を見落とすと、治療が間に合わないこともあります。ぜひ再検査を」と、熱心に勧めてくださる。

何か他の手でもあるのだろうか。半信半疑で検査会場に向かうと、まず出されたのは「C」のマーク。ニンタが答えられずにきょとんとしていると、鳥とおぼしきシルエットを出された。「これは何の形かわかるかな?」えーと、だからシルエット問題もまだ難しいとお伝えしたのですが…。

結果、「診断不可」となり、眼科で再々検査を受けてください、と言われる。眼科だと、何か方法があるのだろうか。とにかく、言われるままに近所の眼科に出かけ、内容を伝えると目にライトを当てて「特に異常は認められませんねえ、では視力検査を」

出てきたのは、鳥のシルエットだった。

幼児の検診、特に視力検査では、障害児の検査についての対応を検討したことがないのだろうか?あれだけ「小さいうちに異常を見つけることが大事だから」と熱弁していたのに、たらい回しにされただけ、という経験は、怒りというより笑い話だった。

その話を当時、同じように障害児を育てるおかあさんに話したところ、障害児の診察に特化した施設があって、そこには眼科もあると教えてくれた。隣の市まで行かなければいけないけれど、どこかのタイミングで必用であれば行こう、と、情報として頭の片隅に置いておいた。

そして年月が流れ、ニンタが2年生の折。ランドルト環も、ギリギリ解答できるようになったが、あてずっぽうなのか見えているのかの確認はできない、という状態である。学校の視力検査は1.0が見えるか見えないかという数値だけれども、その結果の信憑性は高くない。

その状態で、突然ニンタが「まぶしくて見えない」「色が薄くて見えない」「太陽にあたって目が痛くなっちゃった」と度々訴えるようになった。

ひとつ気になったのは、ちょうどその時に、上の子が近視でメガネを作ったタイミングという事だった。上の子の眼科に、ニンタも同行していたので…。もしや、メガネが欲しいだけなのでは…。

或いは心理的な負担。学校疲れたな、という表現が、目が見えない、という表現になっているとか。

そして、本当に目の病気であるのが、一番まずい。

総合的に考えて、ここは障害児専門の眼科に行くべき、という結論になり、診察は一ヶ月待ち、という事実にひるみながら、予約を入れた。

思えば、発語がなかったり、意思疎通の難しいような重度の障害者だって、目の検査は必用なのだ。何か方法はあるんだろう。

病院に着くと、まず、通常の視力検査を受けた。これはニンタ一人で別室で行われたので、詳しくはわからないのだけれど、チラッと部屋を除くと、いくつか見慣れないかわいいグッズがある。Cマークとシルエットクイズだけでなさそうだ、わざわざ来て良かった!とこの時点で思う。

次に、眼底検査の説明を受けた。麻酔薬のような働きをする目薬をして、瞳孔の動きを止め、その状態で観察すると目の異常がわかると言う。瞳孔が調節できない状態がしばらく続くので、もしかしたらその日は外の光がまぶしく感じるかもしれないけれど、痛みもなく、安全であるとのことだった。

やっぱりある!方法が!

「知的障害で視力検査ができない」と訴えた時に、この情報にすぐ辿り着けず、私の場合はたまたま口コミで教えてもらった、という脆弱さは、問題だよな〜、と思う。

これを知らずにずっと視力がわからないままにしている人もいるのでは?一番良いのは、健康診断で「知的障害があって、わからないんです」と訴えた時に、保健師さんか眼科の先生が、専門の病院を教えてくれることなんだけどなあ。

結果、ニンタは近視ではなかった。確実に1.0は見えているであろうと。しいて言えば、若干遠視の傾向があるけれど、こどもが遠視傾向なのはよくあることで、年齢と共に変化していくので、今は気にせずとも良い、とのことだった。斜視など、他の異常もナシ。

「ニンタの目はよく見えてるって!良かったね!」
ニンタはつまらなそうに納得した。

結局、細かい聞き取りができないので、ニンタが見えないと思ったものがなんだったのか、それともただメガネが欲しいだけだったのか、気持ちの問題だったのか、原因はわからない。

とりあえず、眼科のOKをもらって、親が安心するために行ったというところだろうか。

そして、その後ニンタが目の異常を訴えることもなくなった。ニンタも目のことに関心がなくなったのだろう。

何の異常も見つからず、本当にほっとした。ニンタはもうすぐ4年生になるが、次の健康診断では、そろそろランドルト環できちんと検査できる気がする。

しかし、ランドルト環で検査できるようになる年齢、というのは人それぞれ。それまで放っておくのは心配でならない。

障害児を育てる親に、「こういう手もあるよ」ということが広く伝わるといいなあ、と思う。



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