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子育て、甘やかし問題(障害児の場合)

子に障害があると、「この子は苦手が多いから」「障害があるから仕方ない」と、つい親が甘やかしてしまうことがあると聞く。

私の場合、その通りだ。例えばうちの一番上の元気ないっちゃん。一緒に逆上がりとか二重跳びとかを練習すると、私は熱が入って、本人が疲れてきても励まして、限界まで頑張らせたい!と思ってしまう。しかし、障害のあるニンタとなると、「しごく」ような事はためらわれる。

ニンタ本人がやりたいと言えば、いくらでもやらせたい。でも、本人が乗り気でないことをやらせるのは、勇気がいる。無理に出来ないことに向き合わせてしまうと、嫌な記憶だけが残って、挑戦したいという気持ちを失ってしまうのではないかと心配する。

そして、ニンタにとって、挑戦しようとしている事がどれだけ難しいのか?ということが私に判断出来ない事も大きな問題だ。頑張れば出来るのか、とてつもなく難しいのか。自分が無理難題を押し付けているのかどうかが、わからないので、迷う。

そして、一番の問題は、「ニンタには出来ない事があっていい。人生を楽しめればいい」。と私が思ってしまっていることだ。それはニンタを追い詰めないためでもあるし、私が苦しまないためでもある。けれど、その考えによって、ニンタの将来の可能性を潰してしまうかもしれない。とても悩ましい。

いつもいつもそういう事を考えている私が、今回与えられた課題は「鍵盤ハーモニカ」だった。

学校の音楽の時間、鍵盤ハーモニカに挑戦したニンタだったが、手先が不器用なので指使いが難しい。そして「吹く」という作業も少しだけ苦手。どちらもいっぺんにやるのは大変なので、先生の判断で、吹く方に集中して、指一本で鍵盤を押すことにしていた。それでも周りと同じように曲を演奏することはできない。

ニンタは音楽が好きだ。家では、機嫌良く歌を歌ったり、オリジナルの振り付けを作って踊って楽しんでいる。もし楽器ができるようになれば、どれだけこの先の人生を助けられるようになるかと思う。

でも手先にあまり力が入らないんだよな…楽器は無理だよな…。私はいつもの癖で、早々にその可能性をあきらめていた。

しかし、定期検査のリハビリでその話をすると、リハビリの先生がキーボードを持ってきて、ニンタに弾かせてみた。ド、レ、ミ、の三本指ならできる。「学校で一本指で弾いているのは、少しもったいないかもしれない」と言われ、私はまた迷いに迷った。

というのも、ニンタと同じクラスに、小型のキーボードを持ってきているお友達がいるからだ。お友達は障害の理由で「吹く」ことが難しい。だからキーボードで音楽に参加しているのだけれど、ニンタも鍵盤ハーモニカをやめて、キーボードにしたら、指使いを覚えられるのではないだろうか。

でも、ニンタは「吹けない」わけではない。お友達とは事情が違う。それなのに、キーボードを与えてしまうのは、甘やかしではないだろうか。ニンタから「吹く」練習をとりあげることになるかもしれない。

だけれども、まずは音楽を楽しんでほしい。「吹く」ことから開放されたら、もっと音楽を楽しめるのではないかと、私はキーボードに手を伸ばしたいのが本音だった。

しかし、そんな親の「甘やかし」を学校の先生に言い出せないまま、しばらくが経った。すると、ニンタが突然言ったのだ。「お友だちはさ、吹かなくていいやつ持ってるんだ。ニンタも同じのがいいのに」。

みんなと違う特別な物を羨ましがるのは、こどものよくあること。でも、ずっとキーボードを使わせてみたかった私は、ニンタの言葉に飛びついてしまった。「ニンタも同じの使ってみる?先生に聞いてみるね!」

先生からはあっさりと了承された。「吹く、という作業も大切なので、簡単な曲は今まで通り鍵盤ハーモニカで、難しい曲はキーボードでやってみましょう。この先、縦笛が難しくなってきたときに、キーボードで参加するという事もあるかもしれませんから、買ってもいいと思います」とのことだった。

喜び勇んで、お友達のお母さんに連絡を取り、全く同じキーボードを購入した。小型で鍵盤の数も音色も、鍵盤ハーモニカによく似ていて、悪目立ちすることがない。教えてもらって同じものにして良かった。

「ニンタ、キーボード買ったよ!」休みの日に練習させてみると、ただメチャクチャに音を鳴らして遊んだだけで、いきなりドレミの練習をしたりはしなかった。それでも、私はずっと気になっていたアイテムを手に入れて、ほっとしていた。

鍵盤ハーモニカしか選択肢がなかったら、「吹く」という技術は上達したかもしれない。反対に、キーボードという選択肢が増えることで、楽器の演奏を楽しめるようになるかもしれない。どちらも「かもしれない」話で、私には正解はわからない。

やっぱり、「甘やかし」ているかな。でもまずは、やっぱり音楽を楽しんで欲しい。それが私の一番の願いだから。

それに、もしこの先ピアノを習いたい!なんて事になっても、吹く技術は関係ないし、そこまで固執しなくとも、ね。などと、言い訳をしている。

指先に力が入らないことを考えると、ピアノよりも鉄琴とか木琴の方がいいのかも。マリンバのような高度な演奏は無理にしても、一音ずつ叩くような曲であればもしかして…

別にニンタから頼まれたわけでもないのに、ニンタと音楽の相性を日々考えていて、余計なお世話かもしれない。

やっぱり、私は甘やかしてしまう方の親だ。とすると、この先少しくらい厳しくしても、やり過ぎにはならない…のか?

甘やかしなのか、合理的配慮なのか。はたまた、厳しくしすぎなのか、必要な努力なのか。

その判断は、本当に本当に難しい。

でもとりあえず、私はこのキーボードがニンタの手に渡った事が、とても嬉しくて、良くも悪くも、それが今の私という親の姿なのだと思う。


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