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光ってくれぴーちゃん

家から駅まで歩いて30分、自転車で10分くらい。駅前にはいくつか駐輪場があるが、私は朝10時から夜12時まで開いている無料の野外駐輪場を利用している。金がないから。

野外駐輪場は砂利の敷かれた四角い土地をフェンスで囲い何列かに分割しただけの簡易的なもので、フェンスには入り口が3つある。私は基本的に移動している時は意識がないので、家から自転車を走らせてどんなルートを通りどの入り口から駐輪場に乗り込むかは毎回定まらず、完全にガチャとなっております。そこで問題となるのは、無意識の状態が自転車をとめて鍵をかけて駐輪場を出るまで続くということである。意識を取り戻した状態で帰路につき自転車を回収しようとした時にはたと気づく。私は一体どこに自分の自転車をとめたのか。それがわからない。わからないというかおぼえてない。

私の自転車は近所の自転車屋でかなり安かった黒い自転車で、ギアもついていない。この型は駐輪場を歩くと10台に1台の割合でみつかる。うそ、それはさすがに言いすぎたけどマジで30台に一台はみつかる!これはほんと!!
それがより私の自転車の見つけにくさに拍車をかける。

そこで自転車の泥除けにぴーちゃんの証明写真を貼ることにした。ぴーちゃんの証明写真とは我が校の学祭で私が手に入れたもので、知らない学科のおしゃれなお姉さんがおそらく自分の飼っている黄色いインコをブルーバックで正面から撮った写真をシールに印刷したもので、もうわかるでしょう最高なアイテムなんです。これさえ貼っておけばもう広い駐輪場という海の中から迷わずに私の自転車を見つけ出せるに違いないというわけだ。ぴーちゃんが雨に濡れたらかわいそうだから上から透明のシールを貼ることにした。泥除けは湾曲しているのでかなりシワがよって、ぴーちゃんの真空パックみたいになった。素敵。最高。

しかしここで一つ問題が発生する。それは、私が自転車を探す時間帯である。だいたい夕方から夜にかけて、今の時期はどんどん日も短くなり、灯りもない駐輪場では 泥除けのぴーちゃん程度ではどうにもならないのだ。話にならない。お手上げだ。やっぱり光ってくれないと。ぴーちゃんが自ら光り輝いてくれるか、自転車全体を蓄光テープでぐるぐる巻きにでもしないかぎりみつけられるわけがないのだ。

空腹と疲労により血糖値がさがりきった状態で寒くて暗い駐輪場をうろついていると泣きたい気持ちになってくる。何人もの人が的確に自分の自転車に歩み寄り解錠した自転車に飛び乗り颯爽と去っていく中でずっとうろうろうろうろ歩き回っていると自転車泥棒が盗む自転車に目星をつけようとしているように見えてはいやしないかといういらぬ心配まででてくる始末。

なんでみんな迷いない足取りで自分の自転車のとこ行けんだよ。GPSでも埋め込まれてんのかよ気持ち悪りぃな。私はぴーちゃんに会いたいだけなのに。ぴーちゃんどこ?ぴーちゃん、、、すぐぴーちゃんがどこにいるか忘れる私に愛想を尽かしてどこかへいなくなってしまったのかもしれない。それとも、あまりにぴーちゃんが可愛らしいせいで盗まれた?チャリごと?

もう無理だ、どうやったってみつからない。あきらめて明日の朝10時に乗り込んで注意の紙をちぎってやろう。そう心に決めたその日の私はその足でローソンに寄ってお菓子を爆買いして家まで歩いた。歩きながらも考える。そもそも今日は駐輪場のどっちの入り口から入ったのか。まったく思い出せない。というか自転車に乗った記憶さえ蘇らない。

駐輪場が開いていないような朝の早い時間に登校しなければいけない日は頑張って駅まで歩いているんだけどね。毎週金曜日は学校の掃除当番だからね。ちゃんと早起きしてね。今日何曜日だっけ。スマホをみる。金曜日。きんようび。は?

つまり私は今日自転車で駅に行っていないということだ。私は暗がりの中10分近くその場に存在しないぴーちゃんを探し回っていたということになる。はぁもうこんなんばっか、私ってばほんとに役立たずのゴミカスよ。生きてる価値ないわ。

そんなことないよ!


この声は…?……!ぴーちゃん!?


きみはいつも頑張ってるよ!ゴミカスなんてことない!誰にだって生きている価値はあるんだ!その上で提案なんだけども、これからはもっと前向きに生きてみるのはどうだろう?!毎朝目覚めてすぐにカーテンを開け放ち、コップ一杯の水を飲むなどしてね!ラジオ体操なんかもいいかもしれない!健康な精神は健康な肉体に宿るってね!前向きに楽しく生きていけば、多少の失敗なんかではくよくよしない強靭な精神が備わることでしょう!だからまずは涙を拭いて、すぐにお菓子を買って自分を甘やかすことはやめにして!大丈夫!きみならできるはずだよ!

うるせぇな毟るぞこら。てめぇそんなだりーこというタイプだったんかよ、見損なったわマジで。誰にでも言えるような耳障りいい言葉ばっか並べやがって。もういいわ、一生泥除けでブルーバックで囀ってろ。しらねぇよ。

やっぱ冬ってダメだ、冬季鬱による幻覚に縋ってしまうね。そして幻覚の方も決して私に寄り添ってくれはしないのです。私のためだけに光らないぴーちゃんなんて。さようなら。また春にお会いしましょう。

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