被害者と加害者

あの、あなたが被害者だと言う加害者がいるんですけど。』

『は?』

刑事が朝、俺の家に来た。俺には、まったく身に覚えがなかった。

刑事が言うには、昨日の深夜に俺の頭を後ろから加害者が、金属バットで叩いたらしい。
そんなはずは無いと俺は思った。

俺は昨日の深夜、俺の付き合ってる彼女の家に忍び込んで彼女の下着を盗んでいたのだから。

俺が答えないでいると『あと、加害者を併合罪で下着泥棒でも再逮捕する予定です。』 と刑事は言った。

俺はドキッとした。 刑事は、あと簡単な質問を2、3個して帰って行った。

下着ドロか、偶然かなと俺は思ったが内心ドキドキだった。

1日空けて、刑事がまた俺の家に来た。
『あなたには、少し辛い事かもしれませんけど、あなたを襲った加害者は2年前のあなたのお姉さんの事件に関わっていました。』

『姉の事ですか?』

『はい、加害者はあなたのお姉さんの殺人事件の重要参考人になりました。近い内に再逮捕すると思います。』
俺は、またドキッとしてしまった。

おかしい、姉は俺が殺したんだ。しかも、下着ドロまで俺を襲ったとされる加害者のせいにされるなんて。

刑事は、神妙そうな顔をして帰って行った。

刑事『やっと会えたな、、、お前が俺の妻を殺したのは知ってる。しかし、それはもう時効だ。今回起こした事件でお前は、俺の妻を殺した分の罪を償え。』 と刑事は煙草を吹かしながら加害者に言った。

加害者『刑事さん、あたしゃーね殺人での冤罪ならいいですけど下着ドロで懲役が延びるのは勘弁してもらいたいんですけどね。』

刑事『大丈夫、心配するな、お前には確実に死刑が執行されるから懲役は関係無い。それじゃあ、裁判の為に予習を始めようか。あ、あとそれと、、、。』

加害者『なんですか?』

刑事『お前の息子、お前にそっくりだな。』

加害者『息子に会ったんですか?元気でしたか?』

刑事『あぁ、元気だったよ。お前も、最後に息子の罪を肩代わりできるなんて本望だよな。』

加害者『もしかすると、これからあっしが受けようとしている罪は息子の犯した罪なんですか?』

刑事『あぁ。』

加害者『そうですか‥‥。』

刑事『どうした?嬉しそうな顔して。』

加害者『いや、別に‥‥。』

加害者『息子が犯した罪は、何ですか?』

刑事『お前と同じ殺人だよ。』

加害者『もしかして‥‥。』

刑事『そう、お前の娘を殺したのはお前の息子だよ。つまり弟が姉を殺したんだ。』

加害者『そうですか‥‥。』

刑事『あと、下着ドロの事だけど。』

加害者『その罪も、あっしが受けます。』

刑事『何でだ?さっきまで嫌がってたのに。』

加害者『いや、たぶんなんですけど、息子は付き合っている彼女の下着盗んだんだと思うんですよ。』

刑事『よく、わかったな。』

加害者『いや、恥ずかしいですけどあっしも若い時に、付き合ってた女の子の下着を盗む事があって。』

刑事『そこまで、似とるとはな。』

加害者『それで、その彼女があっしの妻になったんですよ。だからたぶん息子もその、女の子と結婚すると思います。』

刑事『奥さんを、愛していたのか?』

加害者『はい。』

刑事『じゃあ、何で殺したんだ?いや何で‥‥俺の妻を殺したんだ。』

加害者『まさか、刑事さんと再婚してるなんて知らなかったんですよ。』

刑事『そうか‥‥。俺も妻を愛していた。』

加害者『1つ質問していいですか?』

刑事『何だ?』

加害者『何で、被害届けの出ていない息子の下着ドロ、いや窃盗を知っているんですか?』

刑事『娘に直接聞いた。』

加害者『娘?もしかして‥‥。』

刑事『そう、お前の息子と俺の娘は恋人同士なんだよ。』

加害者『そうでしたか‥‥。やっぱり下着の件は、息子に罪を受けさせてください。』

刑事『それは、息子のためか?』

加害者『いや、ただ下着ドロで捕まるのは恥ずかしいです。』

刑事『それも、そうだな。でもお前嬉しそうな顔してるな。』

加害者『そうですか?』

刑事『加害者になるのが、嬉しくて堪らないって感じに見えるよ。』

加害者『刑事さんも、被害者になるのが嬉しくてしょうがないって感じに見えますよ。』

刑事『そうか?』

加害者『そうですよ。』

刑事『じゃあ、裁判の予習始めるか。』

加害者『はい。』

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