『おかえりモネ』第108回 しぶとさで勝負
菅波の電話に出ないモネ。菅波は病院でさみしそうにしています。小さなクリスマスツリーが飾られている、そんな季節です。
自分で選んだ道をゆく
モネは電話に出なかったことを詫びるメッセージを送信します。つまり、意図的に出なかったと相手に伝えていると。モネは心の整理がつかないまま、電話で話すことはできなかったといいます。詫びるというより淡々とした説明ですね。
モネなりに挫折感がある。顔が見える仕事がしたいと地元まで戻って来たにもかかわらず、伝えることで相手はむしろ喜ばない。雨を降らせられるわけでもない。冷たい海流を起こせるわけでもない。解決策は何もない……。自然を前にして無力だと噛み締めている。そう送ります。
「自分で選んだんでしょ?」
「それとも東京に戻りますか?」
そう菅波から返ってきます。
菅波、そこは優しい言葉をかけて……と突っ込みたくなるけど、そういうことを菅波はできないし、モネも求めてもいないでしょうね。むしろ慰めの言葉をかけられたところで、問題解決にならんからいらんのよ。
モネはここでこう返します。
「私はここにいます」
戻ってきたら話をしようね
2020年、令和二年のお正月です。
未知はあのレトロ喫茶シベリアにいます。和装を着た男女の客もいますね。でも未知、そしてやってきた亮からはしまむらとアベイル感が漂っていると。しっかし、切ねえなぁ……こういういかにも地方都市の背伸びした若者像で、ビンボくさいって言ったらあんまりだけど、実際そうで。それでも頭の中は船を買うことでいっぱいで、お金を貯めている。リアルに今時の若いものを描いていて辛い。バブルで価値観止まったテレビ業界人あるあるをやらない本作はえらい。
未知はずっと待っていたわけではないようなことを言うけれど、亮はわかっています。コーヒーカップはもうからっぽだ。待っていてくれる未知にあたたかい笑顔を見せます。亮は春の日差しみたいにホッとするような笑顔を見える。東北ならそれこそ“めんこい顔”だ。未知はわりと明るい笑顔とは別の個性、冷たい風のようなシャープさを持っているので、ぴったりというか。親世代とは別の魅力がある。
二人は三日昼過ぎに会う約束をします。マグロを獲って初売りに出す。そうすれば市場も盛り上がる。この二人が地元に溶け込む理由はわかる。自分たちのことだけでなく、地域の人の笑顔まで考えている。これがモネに足りないのかもしれない。
もちろん亮は自分のためにもマグロが欲しいけれど。自分のためと、地域のためと。同時平行して考えることが、地域貢献ですよね! それができる世代だ。都会に出て行くというのは、結局,自分のことで止まっていると。
未知はそんな亮に戻ってきたら話したいことがあると告げます。
亮は「聞きたいこと」かと返します。ちゃんと話をすると誓って、彼は船に乗ります。
未知は家に戻ると、そのことをモネにも伝えるのでした。
気象情報の伝え方
2020年1月3日――モネははまらいん課に出勤します。天気図をみていて、気になることがあるモネ。東京の本社に電話します。野坂も正月出社しています。交通課はむしろ年末年始が大変ですからね。モネが懸念を伝えると、ここで野坂は気象庁との整合性問題を伝えます。データを照らし合わせないで出すことに対して慎重です。
この場面はすごい。
モネも、野坂も、気象情報を伝える意義を理解している。テンポが早く,専門用語づくしで、しかも互いに理解しているとわかります。これは脚本を読み込むだけでない、もっと高度な芝居になっています。しかも「いかにも有能そうな芝居」になっていないのだ。
これは重要。そういうくっさい演出を一切していませんからね。
こうして野坂と話、モネは気象庁ともすりあわせをして、13時30分ラジオで注意喚起をします。風速15メートルでは傘もさせない。妊婦さんは注意。具体性のある注意喚起が良心的です。
漁協を説得せねば
そしてモネは漁協に電話します。
三陸沖にまだ船がいるのではないかと磁郎に問いかけます。荒れるから戻った方がよいと告げます。しかし相手はつれない。船にも最新の気象システムはあるし、経験と勘がある。ハイハイ……そんな態度で冷たく電話を切られます。
しつこい電話を切った磁郎のもとへ、そのモネが押しかけます。最大20メートルの風速、波は5メートル,沖合では6メートルになる、三陸沖は危険だ……そうデータと根拠を言い出すモネ。あ、これ、本人は無自覚ですけどね。相手はむしろ説得されるどころか、嫌気がさしてくるのよね。人間は処理できる情報に限界がある。それを構わず押してくるとかえって嫌になって聞くのをやめるんだな。
磁郎はしつこさにあきれています。本当にしつこい! ずっとそこさいんの? しぶとい……そうウンザリしています。モネは漁業はわからないけど気象予報士であると食い下がります。
そんな相手に、磁郎は「しぶとい……」とつぶやきます。モネの脳裏に、龍己の言葉が思い出されます。
強いんでなくて、しぶといんだ――。
思わず微笑んでしまい、何がおかしいのかとかえって磁郎から不審がられるモネ。モネって思ったことが顔に出やすいのよね。
モネのしぶとさに負けたのか、磁郎は無線を流そうと言い出します。
「ありがとうございます!」
まあ、信用してはいないけども。そう付け足されてはいます。
集めたデータ。
気象予報士の肩書き。
プロとしての技量。
そして主人公補正。
これだけでは足りず、しぶとさがあったからこそ通じたモネの嘆願。これが現実的な描き方だ。きらきらヒロインが何かすれば解決! そういう時代は終わりました。
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