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土曜ドラマ『わげもん〜長崎通訳異聞〜』第三回「苦い秘密」

 黒船来航前夜、嘉永2年(1849年)。伊嶋壮多は、オランダ通辞であった父を探しに長崎にやって来ていた。そして通詞・森山の元で英語を習い始める。
 出島の老通詞・忠弥に呼び出されてゆくと、なんと相手は殺されていた。しかも壮多が犯人として奉行所に追われることになってしまう。

時代劇とミステリを組み合わせる手法

 このドラマは時代劇でありかつミステリであるところが特色でしょう。そういうジャンルはあります。山田風太郎が代表格でしょう。けれども日本の時代劇って、どうにも単純明快なものばかりを求めて、ドツボにはまってしまった感はありましたよね。悪代官のパロディものだの、やほりのぶゆきの漫画で散々茶化されてきた。
 そういうことをしていると陳腐化は免れないわけでして。かつては日本の時代劇から学んできたはずの韓流や華流がそこを乗り越えていってしまう。そういう課題を見据えて出してきたと思える。そんなドラマです。
 時代劇枠ではなく、土曜ドラマ枠を使うあたりにも、そんな配慮を感じます。

苦い秘密の正体は

 父探し――このことがメインプロットとしてありました。それが最終回の前、最悪のかたちでつきつけられます。牢屋の中で真相を知り叫ぶ。真相を知らせる側も、知らされる側も、大変な演技であったと思います。
 永瀬廉さんと小池徹平さんは、やわらかい個性がある。それこそチャラいイケメンとして処理されそうだけれども、むしろそれをプラスに生かす、長所を引き出していると思えます。時代劇だからエキセントリックなキャラクターにすればいいわけじゃない。そりゃ昔の時代劇らしい若手といえば、松平健さんとか、千葉真一さんとか、真田広之そういう方だったわけですけれども。時代も変わったし、こういう昔生きていた人たちも自分達と同じだったと思えるような、そんな個性ある役者を見出すことも大事ですから。
 
 この場面はまさしくそんな二人のぶつかり合いだった。そしてこんな二人だからこそ、本作の訴えかけたいこともわかる。
 壮多の父は、国家に殺された。当時の幕府によって殺されたようなもの。長崎側の保身。幕府に隠したい秘密。そうしたものを抱えたがために、彼は死んでしまったのです。
 これって時代は変わるけど、Netflixで今話題の『新聞記者』のことも連想してしまったのです。何の罪もないのに、国家が体面を守るためだけに誰かを殺すこと。このさき、壮多や森山たちが明治を迎えたとして、この理不尽な死をどう思うのでしょうね。世の中が変われば当たり前のことを守るために、誰かが命を落とすこと。そういう残酷さが詰まっていて圧巻でした。

 永瀬廉さんがこの役に選ばれた理由もわかる。『おかえりモネ』でも確信したのでしょう。彼はこういう理不尽な重圧を受けてこそ輝く個性があると。
 大きな理不尽と、それを受け止める若者。その前提をもとにドラマを作っていったのではないかと思えます。彼の個性なしではなかったドラマではないかと。

時代劇らしさとは何か?

 このドラマは考証も緻密だと思えます。
 褌を堂々と見せている町人男性が出てきました。ああいう褌チラリズムファッション、江戸の露出をきっちり再現してきています。長崎の町そのものが重要だと思える小道具や、出島内部の光景も見事。屋内の照明効果が暗いのに綺麗に見えて、日本の時代劇としての技術をちゃんと出していこうという気合いを感じます。
 時代劇って何も切った張っただけでなくて。居酒屋で森山が飲んだくれるような場面も大事なんですよね。そういう技術継承を考えた画になっていて眼福です。
 
 所作指導もちゃんとしていて、しかも若い役者さんがしっかりと吸収していて。しかも長崎が舞台だから、いろんなルーツの人が出ていて。時代劇が進歩していると毎回わかってとても嬉しいドラマです。

親子愛は国境を超えて

 清人の父を持つとりが、名前について説明しました。漢字で書くと“都麗”。壮多が「都が麗しい……」というと、「全てが麗しい」という意味だと説明します。このあたりはものすごく考えられていて素晴らしいと思いました。中国語考証をしっかりしています。
 日本のフィクションって、同じ漢字文化圏だからとちょっと変な中国語名をつけることもありますので。
 日本語で発音して女性名として通じる。そしてよい意味がある。父の愛を感じる。この条件でキッチリ作り上げた名前でした。
 このドラマにはいろんなルーツを持つ人が出てきます。母の国に生きているけど、父はいない。不在の父が多い作品です。でも、そんな父にも愛があるとわかる。細やかな気遣いがある作品です。

そして最終回はどうなる?

 ミステリでもあるこのドラマは、最終回へ向けたラストでものすごい展開になります。壮多が脱獄する展開とその手引きする人物。
 そして謎の船。こういう木造船を出すこともものすごく大変なので、頑張っております。この船がメアリー・セレスト号状態。メアリー・セレスト号とは、ミステリでおなじみの、人が忽然と消えたように思える船のことです。
 こういう船が出てくるだけでぐっと心をつかまれる。しかも船には複数の言語で何かが書かれている。これはわげもん、つまりは複数の言語を知らねば解けぬ謎です。
 壮多の父という謎は解けたけど、密貿易はそうじゃない。来週回にどんな展開が待っているのか? 楽しみでなりません。

ラスト

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