『おちょやん』21 道頓堀にもきれいな花は咲く
天海一座の千秋楽が終わりました。一平はいきなり代役を頼んだ千代に礼を言います。千代の演技で、一平は何かを悟ったようです。
笑わすだけが喜劇やない。千之助とも万太郎ともちがう喜劇があること――。
こういう演じることへの気づきに、ドラマの作り手側の意識もあるようで、どんなセリフも見逃せない。滾る情熱がある、そんな『おちょやん』が始まります。
千代の思い出作り
ちょっと生意気な口調だった千代も、役者として舞台に立って楽しかったと振り返ります。
「ええ思い出になりました。ほんまおおきに」
千代がいよいよ岡安を去る日も近づいてきました。宗助とシズは、欲しいもんがないか聞いてきます。こういう場面も細かくて、のほほんとした宗助を名目的には立てていることがわかります。戦前は法律上、女は商売ができないようになっています。契約とか金のやりとりとか、女名義だと制約かかんねん。せやから男が名義だけ貸したりする。だから記録や書類では、男だけが社会を作っとったように思えるけど、そんなわけないんやね。歴史とジェンダーの基礎やで、基礎!
なんでも、岡安では年季明けには願いを叶えるそうです。記念品でも渡すのでしょう。それこそかんざしとか、あるいはモダンに万年筆とか。万年筆をギフトにする風習は、この時代あたりからですね。時計はちょっと女性向きではまだないかな。
千代はここで、ものでなくともよいかと確認します。次の瞬間、食事を取る千代のアップが見える。なんと、岡安主人一家とお膳で食事をとっているのです。みつえは呆れております。千代はこうやって一家総出でゆっくり食事することがなかったとしみじみとしています。白いご飯かて、そうそう食べられへんかったかも。よく言いますよね、徴兵制度で兵士が喜んだのは白米だったと。そのせいで壊血病になろうと、陸軍がは白米に固執した理由はそのへんにある。
この千代の世代は、米は農家の血と汗の結晶として大事にする風習がありまして。それはええことのようで、食器に米粒がついていたり、洗い場に長そうもんなら「食え!」とどやされることでもあった。
今はそうでもないけれども、かつてはパンクロッカーがステージで鶏殺したりしてましたがな。あれの日本人に衝撃を与える版は何かっちゅう話で。炊き立てご飯をぶちまけるというものがあったんですね。ははぁ、なるほど。白米信仰が時を超えて脈々と流れているのかもしれない。
白いご飯を、ゆっくりと食べる。これほど幸せなことはない。千代は今日は楽しいことばかりと噛み締めています。みつえはどうして一平と舞台に立っていたのか気にしています。しかも手まで繋いじゃって! 千代は引っ張られただけやとあっけらかんと返します。みつえは一平が好きだからね。
ここでハナが千代にきっぱりと断言します。
「役者になりい、なれる!
お家さんに言われるとその気になってまうと千代。みつえは本気にするなと言いますが、ハナは真実しか言わない老賢者ロール持ちです。それはさておき、千代は満足げです。思い残すことはあらへん!
千代を逃がせ!
案の定、岡安には借金取りとテルヲが押しかけて来ます。ここは宗助がもてなし、かめが酒を運んで来ます。こういうセットに、小道具に、おもてなしに。きっちり残していくべきものを絵に収める心意気を感じるんよ!
一方、裏ではお茶子たちが千代に草履やおにぎりを用意しています。なんと、千代に内緒で逃げる準備をしていたのです。なんでもご寮人さんの考えで、船で待っているとか。ええなぁ、船! 船というところが、道頓堀なのです。
一方でおもてなしされた借金取りは、遅いと言い出しました。灘あたりのうまい酒でも飲んでいこか。そう思ってしもたんやろなぁ。ここでやっと探しにいくと、「もぬけの殻や!」。ははっ、借金取りども、抜けとるやん!
千代はみつえと、鶴亀劇場前にいます。ここで立ち止まり、千代がこう言います。
「みつえさん」
千代がそういうと、みつえはこう返す。
「あーめんどくさい!」
みつえでええ、ほっとかれへん、友達のこと。そうみつえは言い出すのです。これは熱い展開や。いろんな意味で、熱い! くどいようですが、朝ドラヒロインはこういうみつえ階層なんです。千代は脇役です。そういう脇役を友達、見捨てられへんと言うことは、大きな意味がある。
どの層でもヒロインになれる。そこを再確認するようで。それに、この逃亡劇のMVPがみつえだと言うところがええ! だって、王子様状態の一平がお姫様抱っこして船に乗せてもええやん? そうしない。女性が女性を救う、そういうシスターフッドがある。こういうものを見ていると、「女の敵は女」って、ただのミソジニーな嘘だと思えるんですよ。そう見る側の心まで洗ってこそ、演じるっちゅうことやないの?
ここでシスターフッドを確認する二人に、借金取りが追いつきます。
「おい、おったぞ!」
みつえは千代を船着場にお母ちゃんがいると送り出します。借金取りが押しかけ、みつえが腕を広げて止めようとするものの……止められるわけあらへん。そう思っていたら、乞食が邪魔しに入りました。
「なんじゃおのれら!」
「どきさらせ!」
ええなぁ。乞食! 乞食だって、いなかったことにされてしまう筆頭ですね。今はホームレス排除のベンチを見かけることが当たり前になっている。災害時の避難所に入れない。給付金ももらえない。そうやって、社会にいる人をいないことにする社会って、進化があると言えるんでしょうか? いろいろ考えてしまう。無駄な人なんているわけないのに。そういうところまで意識させる、本気のええもんをNHK大阪が作っとる。みんなえらいと思う。プロ、職人の仕事だと思う。天晴れです!
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『週刊おちょやん武者震レビュー』
2020年度下半期NHK大阪朝の連続テレビ小説『おちょやん』をレビューするで!週刊や!(前身はこちら https://asadrama.c…
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