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『おちょやん』96 一平と灯子ができとる!

 昭和24年(1949年)、千之助から受け取ったもんを無駄にせず、鶴亀新喜劇は順調なはずですが。

一平、スランプに陥る

 ところが千之助はこう言っていました。
「お前に任せられるか、ボケェ」
 えっ? ここで一平が目覚めます。なんや夢か!
 それがどうにも夢とちゃうな。鶴亀の社名入り原稿用紙は空白です。
 さて、一座の稽古場では。一平が一年目の興行は『お家はんと直どん』をやると言い切ります。新作は30本以上やってきた。初心へ戻る意味もありますわな。千兵衛が賛成します。前回は役がつかなかったから、今回こそはと張り切っているのです。
 千兵衛と万歳、すっかり馴染んでますわな。色々考えてしまう。こういう愉快な先輩がおった。そういう先輩が復員後はあんなに悲しくて辛い思いを抱えていた。そういうことまで語り継いでいかなあきまへんな。
 ところが、ここで灯子が衝撃的なことを言い出します。もう出ないのだと。この直前の回想シーンで、一平と千代が仲睦まじく演じている姿が何か不穏です。しかも劇団を辞めるとまで灯子は言い切る。
 千代は不思議がり、なんでかと問いかけるのですが。うまくなっている、見込みある。そう引き止め、「なあ一平」と問いかけます。
「ああ」
 一平は腕組みしたままそっけない返事。不穏ですな。あの真っ白い原稿用紙。一周年で新作をやらない。そしてこの反応。
 そして出て行った灯子を千代が追いかけようとすると、一平が代わりに行くのでした。

うどん屋の噂話

 そして岡福で、千代から灯子のことを聞いた熊田がむせています。演技がうまいな。食べながらの演技ってなかなか大変ですが、口の中を見せずに、綺麗にきっちりとこなしております。流石や。背後でうどんすすってる客もええ味だしとって、大阪やなという感じがしみじみとあります。
 宗助はここで、自分が必要とされてへんのやないかと言い出す。これは洞察ちゅうか自分もそうだからということが、みつえがどんぶり洗えというあたりでわかります。
 熊田はそないなこと聞いたら大山社長にどやされる、辞めるのを辞めさせろと千代を言いくるめ、丼を置いてこう言います。
「ごっつぉさん」
 なんやこの圧倒的な大阪感は! 道頓堀のうどん屋で、おっちゃんがうどんを啜り「ごっつぉさん」と言って財布を取り出す。こういうのが描きたかったんやろなぁ。日常描写に大阪が宿ってるなぁ。
 千代は話終わってへんと焦りますが、なんでも大山社長は働き過ぎて疲れていて、熊田がそのぶん大わらわだそうですよ。
 ここでシズが社長の具合をさりげなく気遣います。芝居茶屋時代を思い出しますし、こういうネットワークが大事だと思わされますね。噂話をこうして把握するところが、かつてのお家さん・ハナを彷彿とさせます。おばあちゃんはなんで賢いのか? お家はんはなんでいろいろ見抜けたのか? 知恵と経験、そして噂話ですな。
 みつえと一福も、この世間話スキルが引き継がれているようではある。これも重要や。なんか不穏な気配も察知すると。

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2020年度下半期NHK大阪朝の連続テレビ小説『おちょやん』をレビューするで!週刊や!(前身はこちら https://asadrama.com/

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