『おかえりモネ』第109回 嵐の中で

 2020年1月3日――海が荒れ、船が港に戻ってきます。未知は亮を待っているのでした。

海が荒れたら港は

 モネの仕事場に小山が顔を出し、ねぎらいます。気遣いつつも、嵐ともなると年末年始でもない。船は帰港し、給油、食料,水の供給をします。これはビジネスチャンスでもある。ラジオでは居酒屋の宣伝も。
 ここを見ていて、人間って変わるようでそうでもないと思いました。昔から船が港によれば、食料と水を供給する。酒場が待ち受けている。そういうことは変わらないのだと。
 海が荒れたら商売になる。そのことも変わりません。

仕事ができる人は役割分担する

 モネのもとに電話がかかってきます。
 ここが細かいのですが、「中央漁協の太田滋郎」と肩書きとフルネームを名乗っています。モネへの敬意が自然と出ています。なんでも亮の乗った船が戻らないそうです。
 19時25分――モネは野坂に電話します。
 19トンの船が戻らない、気象情報はどうか? そうモネが尋ねます。野坂は交通のエキスパートですからね。5メートルの波が続き、低気圧がいる海。これは内田くんを呼んだ方がいい。そう野坂は判断します。内田は風のエキスパートです。
 これが本作のよいところ。ダメなドラマとそうでないものの違いってわかります? ダメなものって、万能チートキャラが出てくるんですよ。経済も工業も商業も全部俺に任せろ!……こういうSUGEEE! ってリアリティゼロなんですよ。あのナポレオンですら、海軍に嘴突っ込んでかえって事態を悪化させてますので。なので、できる奴ってむしろ「これは私よりアイツに任せよう!」って権限を委譲するんです。
 こういうできる仕事描写をテキパキと入れるから本作はいいのよ。

 亮の船が戻りません。待ち続ける未知は続報を聞いて絶句し,何も言えない。これまたリアルな悲嘆です。ワナワナして泣くなんてことはむしろできない。呆然とするもので。何か悲報を聞いた瞬間に激昂しギャーギャー怒鳴るのって、ただの演出ですよね。
 三生が永浦家にいます。なんでおめー……って、こいつ、仏徳をモリモリと伸ばしてますね。仏徳で寄り添うべき相手を見つけたんでしょうね。
 新次は漁業に車を走らせています。

 そしてウェザーエキスパーつでは、風読みの内田が結論を出します。モネはどう思うのか野坂が確認し,賛同します。
 転覆しそうな中ではあるが、6時間待ち続けることが最善の策である――。
 ここで朝岡も到着しました。思い出してください。今は正月三が日。それでも気象相手ではそんなこと関係ありません。
 未知といる悠人に、明日美から電話が来ます。状況を聞き、それでマモちゃんが出社したのかと納得する明日美。人と人が自然に繋がっています。

新次が漁協に顔を出すとき

 漁業には人が集まっています。海上保安庁にも連絡し,彼らも陸でできることはやり尽くしました。新次と磁郎が顔を合わせると、微かに動揺が走ります。なんと丁寧な演技だ。もう考えるまでもなくでて、それをカメラがちゃんと捉えています。
 一言だけ。そう断って新次は無線で話します。
 西へ舳先を向けて6時間、パラアンカーで耐えろ。そう指示を出します。
 新次は内田やモネの話を聞いていたのか? いなくともこう同じ結論に至るとすれば、及川新次、やはり天性がある海の男です。いちご農家のヘルプもいいけどよ、やっぱし、海にいてもいいんでねえの。
 ここで新次が「迷惑かけてすみません」と頭を下げることが悲しい。我が子が危険なのに、泣くわけでもなく、取り乱すわけでもなく、冷静に対処を伝え謝る。なんて悲しいんだ……。

 そのころ未知は取り乱していました。あんな綺麗な笑顔をした亮くんが戻らない。
 もっと早く言えばよかった。そう悔やんでしまう。もう、やめちゃおう。漁師とか船とか海とか。私たちは縛られてきた。亮くんと何も話せていない。そうあの冷静な未知が取り乱している。
 結局のところ、どっちみち後悔があるんだろうな。大事な誰かを手にして失うことを亮は怖がっているけど。手に入れなければそれはそれで後悔がある。未知はそう訴えているようで。
 未知はもっとクールなのかと思っていた。研究と亮を天秤にかけるどころか、亮への思いが重すぎたんじゃないですか。

人事を尽くして天命を待つ

 モネはそんな妹を見て動揺し、野坂に電話をし,救援できる船はいないか言い出します。また予測できないか言い出します。モネはスイッチが入るとブレーキがきかない。ここで朝岡が止めに入ります。
 自分たちの力を過信してはいけない。
 預言者じゃない。
 科学を積み重ね、データを分析することしかできない。
「わかってます、でも……」
 そう食い下がるモネ。朝岡は淡々と、祈るしかできないことを経験していると語ります。朝岡には経験値がある。彼も不器用で,若い頃はそれこそ衝突を繰り返してきたモネや菅波と同じタイプでしょう。経験でかなり丸くなりました。
 だからこそ。永浦さんにはもう何もできないという。こう突き放すことだって大変ですよ。

 みんな祈るしかない。気仙沼で祈る皆の顔から,深刻さが伝わってきます。耕治は「亮まで連れて行かれてたまるかよ」という。彼は親友の新次の心を思い,そう悔しがっています。その新次は車の中にいてハンドルを握っているのでした。
 ここで三生は文字通り仏僧として祈っている。笑い事でなくて。本作は迷信や宗教の再定義をしてきますよね。科学の力がない頃は「神様の祟り」で自然破壊や災害を防いできた。科学があろうと、神仏の教えや僧侶の言葉は人の心を救います。科学と心。どちらも大事。

 そして1月4日午前3時2分――モネのスマホに着信がありました。

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