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司馬遼太郎おじさんをバカにしていた君たちへ

 また司馬遼太郎の話だ。すみません。

 こういう文脈では司馬遼太郎読者全員がバカにされているわけじゃない。講演会で研究者に「それは司馬遼太郎とはちがいますよね」と質問するおじさんがバカにされているだけ。

 それを前置きとしまして。
 メッケルの関ヶ原を筆頭に、司馬遼太郎のガセネタは研究されています。けれども、それが戦国で止まって、幕末明治以降は検証不十分ではないかとしみじみ思うのです。

 日露戦争本をざざっと読んでいくと、海外のものは勝因として外交をあげます。
 そこにはイギリスとアメリカの思惑がある。年老いたロシア帝国を颯爽と倒す日本を喧伝し、資金援助してきた。アドミラルトーゴーなんて、プロパガンダ由来の褒め称えぶりではある。
 日本側もそれに乗っかって軍神を作り上げたと。
 司馬遼太郎の『坂の上の雲』はそういうものから脱却できないどころか、乗っかったものであり、弊害が大きいのです。これは幕末明治もそうで、あの大ファンの半藤一利ですら、司馬遼太郎の幕末ものには批判的。

 また同じことを書いている気がするな。そう思いつつ話を前に進めますと。
 司馬遼太郎おじさんの子の世代にとって、ポスト司馬遼太郎は何かと考えてみる。司馬遼太郎も好きだけど、距離は置いてますよね。その答えが見えてきた気がする。

サブカルで天下国家は語れるのか?

 まずは田中芳樹氏。断っておきますが、彼には何の恨みもない。ただ、手法に問題があったのだろうとは思う。
 サブカル文脈の作品に、政治や国家論を乗せることは果たしてよかったのだろうか? 今、その証明がされつつあると思います。『銀英伝』を連想しつつ政治を語るアカウントはよく見かける。けれども、信頼のあるリソース由来で現実の政治を語っているのと、雑な「野党ガー」「フェミガー」はまた別。これはまったくもって田中氏の責任ではないけれども、サブカルで政治論争をする手法の是非は今後考えねばならないことでしょう。足掛かりはできても、議論の仕方や政治思想まで到達できるかどうかは別の話。サブカルって、結局気軽にライトに楽しくやる、重たい話は避ける傾向がどうしたって出てきますからね。
 田中氏は、いろいろ事情はあったのだろうけれども、一番やりたかったであろう中国史で、天下国家論を展開した方がよかったのではないかと思ってしまいます。

大手掲示板まとめの甘い味

 次に大手掲示板。
 大手掲示板には歴史系のまとめがある。かつて過去noteにも書いたのですが(興味あればあさってください)、私も逸話系スレッド常連投稿者で、いつの間にやらその対象人物の評価が変わってしまった経験があります。私は国会図書館に通い詰めにし、コピー代を払い、ファイリングしてまでやっていたのだから我ながら意味がわからない。まとめた側はさておき、投稿した側の栄誉には一切ならないものだから。
 でも敢えて私は言いたい。当時まだ少なかったあの地方の歴史がらみの本を調べてソースを確認した上で投稿したこと。それは自分なりの責任の取り方ではあった。でも、そうでない人がいたらどうなるんでしょうね。
 ああいう大手掲示板で歴史の真実を知ることは楽しい。経験者だからそうだと同意する。でもそのリスクは考えたいところ。

ネットで真実

 SNSとYoutuber。SNSの歴史警察になるのも嫌だからと放置されることは多い。Youtubeもそう。でも、そこでキャッチーで、かつあやしげな説も流されてしまったら?
 私如きを信じる人はいないだろう。とはいえ、それでも英語でいろいろ発信したりするとき、嘘はいかんからソースありきでつぶやこうと最近は心がけています。一応、良心は捨ててません。

これから焼き直される“権威”

 こうしてざっとみてきて、結局のところ人間は誘惑に弱いのだと痛感させられる。一度ハマって、そうだ、こんなことあったんだとおもしろくなると、その思い出そのものを大事にしてしまう。史実や事実はどーでもいいし!
 青春期に重なると特にその傾向が強くなる。なぁんだ、司馬遼太郎おじさんとは、青春を大事にしていただけなんだね。そうにっこりしたくなるかというと、そんなわけもない。
 司馬遼太郎のうんちく語り、リメイク欲求は(ほぼ)無害ですけどね。東京オリンピックだの万博だのリニアだの。そんなもん税金でリメイクされても困るだけ。『ダイの大冒険』だの『ファイナルファンタジー7』のリメイクで喜ぶ方が無害です。
 要するに、リメイク欲求は誰にでもあります。その欲求が有害になったら批判されます。そこは甘んじて受けねばなりませんよ。

 これから先は、サブカルや大手掲示板のノリが焼き直されてゆく。そしてそれを下の世代が嘲笑する。そんな時代になるわけですか。暗澹たる思いはあるものの、仕方ないという気はします。

 ただ、それが有害とみなされて叩かれることを想定し、理論で反駁するなり、態度を改める準備はしておきましょうね。

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