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『虎に翼』第4回 母は許さない

 花江に止められ、母・はるへの突撃を止められた寅子。したたかに、回り道をして、目的達成を狙います。今思うことを我慢しているなんて大嫌いだし苦手だけど、目的のためならば致し方なし――そう思うしかない寅子でした。
 とはいえそこは寅子なので、花江と兄・直道のバカップルぶりには軽蔑を隠せない。恋愛がなんだか薄気味悪いのでした。コイツ……恋愛小説とか興味ないだろ。『野菊の墓』とか全然泣けないだろ。

偽りの笑顔で、したたかに切り抜けろ

 冒頭、素直で表面的にはかわいらしくタスクをこなす寅子が描かれます。これは自閉症女子あるある偽装、「マスキング」ってやつですね。同じ自閉症でも性差はあり、ジェンダーの圧力がかかるのは女性。だもんで、抑えつけて、愛想笑いして、耐え忍ぶスキルを身につけることもあるんです。本人からすれば不健康だし全く楽しくないし、無理があるんだ。寅子の顔色はすぐれない。そういうマスキングをうまく描いていますねえ。そういうマスキングならではの偽善的で不気味な笑顔を、優三のように見抜ける人もいるかも。そんな寅子が心底笑うのは、優三から法律書を渡された場面。しかも優三は、婦人の権利に関するものを選びました。ここも小道具担当者ががんばっていて、フォントにノイズが入ります。デジタル処理すると入らないからわざわざつけたすんでしょう。
 衣装や撮影技術も素晴らしい。当時ならではのマントをたなびかせた学生服がいいですね。

結婚式の日

 朝ドラ名物結婚式です。新郎新婦のクラシックで,当時らしい衣装がいいですね。ヴィクトリア女王以来定番となった白いウェディングドレスの花江は、ミュシャの絵のよう。当時らしさが出ています。
 シャンデリアの下でにぎにぎしく行われる婚礼。笑顔に満ちた中、寅子はそこには幸せしかないとは認識できる。そこにつけこみ、はるが結婚の素晴らしさを説き、いい式にすると言い出す。寅子は反抗心が吹き上がる流れだ。ここで直道が寅子を歌わせると、ひどいセンスの歌を熱唱します。要するに、パパとママは結婚して喧嘩ばかりするという「モン・パパ」という曲。コミカルだし、客は酔っているし、みんななんとなく受け流しているけど、最低のやらかしでは? 能天気な直道は忘れるとしても、花江からすれば貸し一つかもしれませんてば。
 それにても、伊藤沙莉さんはいいなあ。前作ヒロインよりイキイキと歌っているような。
 ここでナレーションが心の声を代弁しだします。母の言う通り、結婚は悪くないとは思えない。なぜか? 花江はともかくとして自分の幸せはない。したたかってなんだ? なんで女だけニコニコ、周りの顔色うかがって生きなきゃならない? なんでスンッとしているんだ? なんでなんだ?
 そう怒りをこめた熱唱は参列者に好評だとか。尾野真千子さんがハスキーボイスで語るところも本作の良さです。これは本気で怒っているとわかる。朝っぱらからこんな生々しい怒りを全力で投げつけられて、疲弊するおっさんもいるかもしれん。それが狙いだろう。いやなら『ブギウギ』でもみとったらええんやで。録画しとるかしらんけど。

穂高は父の恩師だった

 このあと、廊下で参列者を見送ることに。下宿の優三だけ着物の質が周りより一段落ちるのが切ないですね。そこへ穂高が通りかかります。なんと穂高は猪爪直言の恩師でした。しかも、ゼミで丸亀の旅館泊まった際、はるを見初めた直道を結びつける役目を果たしたらしい。そして寅子にも目を止めます。願書を見た時点で、珍しい名字のため、猪爪の娘かと思っていたらしい。しかも穂高は合格だと告げています。試験をするけどするまでもないってよ。裏口か不正のようにも思えるんだけれども、それだけ優秀、間違いなしと思ったということで。
 穂高は教え子の娘を得られてウキウキしているのか、熱心に語りかけます。しかし寅子とすればたまったもんじゃない! 策が台無しなんじゃあ! 顔が引き攣りつつ、お礼を述べるしかない。握手まですると、まあワクワクはするんだろうけどさ。穂高は直道を飲みに誘います。流石にどうかと迷うものの、はるが許して、かくして恩師と教え子は飲みに行きます。
 一方ではるは、ジロリと寅子を睨みつけるのでした。

 はるは静かに台所で米を研いでいます。この台所が、家が、彼女の世界です。エリート男性に見初められ、結婚し、子を産んだ。並ぶ家族写真がそんなはるの人生を伝えてきます。完璧な人生。あとは息子に嫁をとり、娘を嫁がせる。そう順調に歩んできた人生を、その娘が崩そうとしているのかもしれない。
 寅子はそんな母に声をかけます。
 寅子は素直に謝りつつ、隠すつもりはないと言います。それはそうだ。直言が黙っていたし、花江が延期を言うし,それが悪いっちゃそうだ。
 はるは背中を向けたまま娘の言葉を遮り、女学校の帰りに呉服屋に行くと告げます。三度お見合いに失敗した振袖は縁起が悪いから新しく仕立てると。仲人は穂高先生にするとまで告げます。そして、歌劇団も法学部もお見合いから逃げるだけだろうと先手を打ってきます。相手に罪悪感を持たせたいコントロール技法です。
 こういうときは否定せず認めるべし。寅子はあっさりと認めます。寅子はお見合いをしたくない。婚姻制度について調べれば調べるほど心が萎んでいくのだと。
 はるは穂高先生に何を吹き込まれたのかという。あるあるだわ。好きな映画が渋いと「彼氏の影響?」とか言われるやつだな。
 寅子は否定する。そのうえで、穂高は私の話を遮らなかったという。それどころか、話すように促された。女であり、個性的で、口が回る寅子は、幼い頃からずっと意見表明を遮られてきた。だからそれがうれしかった。法律のことはわからない。でも、穂高のような人がいてくれる。心の底から自分を誇って笑えるかもしれない。そう寅子は見出した。
 これを言われたら、直言なら涙をこぼすかもしれない。ごめんよ、可愛い娘の頭を押さえつけてきたね、って。でもはるは?
 寅子が必死で勉強する、女学校でも成績優秀だというと、はるもそれを認めます。
 でも、はるは譲れないものがあるらしく……。

同調圧力の邪悪さ

 寅子はASD(自閉)だと思えるんです。それを正面切ってガンガン出してきているなあと。そもそもタイトルが虎だし、この人は気が強い.攻撃的にも思えるんですよ。
 ADHDぽいヒロインはこれまでもいたし、グレーゾーンか定型でも、せいぜい空気が読めずにずれる範囲で収めてきた朝ドラです。しかし、今回は高学歴だし弁が立つし、ものすごく攻撃力が高いんですよ。ADHDみたいな天然ぽくてドジで空気読めないタイプは、まだしもいる。『半分、青い。』の鈴愛。『ちむどんどん』の暢子がそうですね。地方出身で低学歴だから、殴り甲斐もある。どうせ殴り返してこない女ほど、殴って楽しい相手はいませんよね。『おかえりモネ』のモネはASDぽいけれども、頑固だけどおとなしくて馴染む方。
 こうしてみてくると、やっぱり寅子は剛のもの。都市部出身、エリート、学歴最高峰。少し喋れば確実に頭がいいとわかるし、気が強い。彼女は虎です。ここまで朝ドラ界隈からはみ出して嫌われる要素を全部集めたようなヒロインはそうそういないと思いますよ。

 そして寅子は、それゆえに、同性からも好かれないんですよ。
 ナレーションは寅子の考えを語ってくれる。別に寅子は、はるにせよ、花江にせよ。個人攻撃をするつもりはないんです。あなたの人生はつまらないと言う気はない。否定してどーする。そんなもん時間と思考力の無駄だってば。ただ、あなたたちと同じ道を歩んでも、私にあう幸福はないと思うだけ。学ぶ道の先を極めたいだけ……なんだけど、理解しない人がいるんだよな。異性だけでなく、なまじ同性だから厄介なんだよ。なまじ敵や悪人じゃないからめんどくさいんだよ。余計なお世話なのに「よかれと思って」というから鬱陶しいんだよ。こっちのこと大して理解しとらんくせに。理解する気もないくせに。

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