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『おちょやん』113 千代の凱旋帰還と、一平の謝罪

 昭和27年(1952年)、道頓堀に竹井千代が戻ってきました。

『桂春団治』で丸裸になった一平

 岡福で飲んで、劇団員が帰っていく。昨日も踊って歌舞伎の真似をしていた千兵衛は飲兵衛で、ヘロヘロです。戦時中はビンタで軍曹あたりからビビビビとしごかれてそう。苦労したんやろなぁ。そんな彼が戻ってきて、生きて芝居をしていることが嬉しい。それにみんな昭和のダンディなおしゃれを追及してて。漆原や香里はおしゃれさんなので、当時らしいファッションをしています。これをきっちり準備する衣装さんがえらいで。
 千代はここで鶴亀の芝居のことを誰も聞かない時が抜けたようにいう。すると寛治が、みんな会えただけで嬉しかったと言いつつ、一平が全てを曝け出した『桂春団治』のことを語ります。
 子どものため。灯子のため。鶴亀新喜劇のため。そして千代さんのため。
 そしてキッパリと言い切る。いつか喜劇人として、一平を超えてみせると。千代には聞いていてもらいたかったと告げ、去ってゆく寛治。
 のちに、このときの青年俳優は、鶴亀新喜劇を背負って立つ男、日本一の喜劇王と称させることとなる。その名を松島寛。
 こういう山田風太郎の明治ものにありそうな、そういうもんを感じるで! 前田旺志郎さん、さすがやわ。松竹が自信を持って出してきた感がある。

決めつけないで挑むこと

 さて、千代は家で春子の夢について聞きます。看護婦になろうにも、算数や理科ができへん。そう打ち明ける春子。
 これは結構大きな問題提起やと思うで。
 能力主義っちゅうのはええもんと思われとります。まあ、戦前の華族やら何やら、女学校卒の大金持ち優遇は問題ですな。でも、それを戦後完全に解消できたかというと、そうでもない。やはりまだまだ性別、家の財産、文系か理系か、そういうことで進路が狭まると。
 今、こういう学力偏重どないなっとんねん、という問題提起がなされています。その萌芽がある時代ちゅうことやね。栗子や千代世代よりはマシになったけれども。
 千代はそんな春子の、はなから駄目だと決めつける言葉を聞いています。そしてその枕元で、『桂春団治』の脚本をめくります。
 そこにあるのは、糟糠の妻を泣かせる駄目夫の話。一平なりに捨てた女房の気持ちに添っている。どれほど苦しんだか、悲しいものか、捨てる男が身勝手か! そう訴えているのです。香里がその妻を演じています。
 千代は新喜劇の皆と撮影した写真を眺めている。あの白黒の写真に、たくさんの人がいる。死んでしまった人もいる。千代と、千夜の大事な人の人生がそこにはありました。

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2020年度下半期NHK大阪朝の連続テレビ小説『おちょやん』をレビューするで!週刊や!(前身はこちら https://asadrama.com/

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